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不動産価値は資金調達側の収益率で決まるの?

結論から申し上げれば、そうではありません!

ここのところ仕事があまりにも集中していたため、しばらくの間、更新しておりませんでした。以前、以下のようなご意見を頂戴し、回答させていただいたことがございます。

『ローンとエクイティとで構成される不動産投資ビークル(不動産ファンド)が市場参加者の中心的な存在である場合、その投資ビークルの資金調達能力、あるいは、リスクに対するポジションが不動産価格を動かすことになります。』

以下、回答です(多少の追加、修正を加えてあります)。

私の議論は、同一時点の同一不動産の価格は、金融条件によって異なることはない、という趣旨でして、金融情勢・経済情勢や、これに影響されて融資条件など、外的環境が異なる異時点間の同一不動産の価格まで同一だ、といっているわけではありません。同一不動産であっても、外的環境が異なる異時点間であれば、当然価格も異なってきます。

また、私の議論は、以下に述べます「市場価値」(鑑定評価基準でいう「正常価格」)の話でありまして、「市場価格」や「投資価値」の話ではありません。

議論の混乱を避けるため、ごく簡単に用語の定義をさせていただきます。日本の不動産鑑定評価基準(以下「評価基準」といいます。)には「投資価値」の定義はありませんので、ここでは、米国のビジネススクールなどでも広くテキストとして採用されているジェフリー・D・フィッシャー、ロバート・S・マーティン著(刈谷武昭監訳)「収益不動産評価の理論と実務」(東洋経済新報社)における定義を採用させていただきます。

「市場価値」・・・ 不動産の特定の権益に対して、典型的かつ市場の事情に通じた投資家、マーケティングのための相当な期間そして現金ないしはそれと同等の条件でなされた取引、という仮定の下で、売主が見込むことができる最も確からしい価格を表す、ある特定の時点現在においてなされた価値評価額。原著では「Market Value」ですので、評価基準でいえば、鑑定士が通常求めることとされている「正常価格」に該当します。評価基準には評価基準なりの定義がありますが、別のブログでも書かせていただきましたが、ここでは、日本における鑑定評価理論の礎を築かれた故櫛田光男先生の言葉を再掲させていただきます。正常価格というものは、「売手、買手の双方が、いずれも得はしませんけれども、同時にいずれも損をしないような価格として、したがって、誰にでも通用し、誰もが納得する価格として市場という仕組みをとおして、社会一般が認めるものである」ということができます。評価基準でいえば、合理的な市場で形成されるであろう「市場価値を表示する適正な価格」ということになります。

「市場価格」・・・ 収益不動産に対して実際に支払われた価格。原著では「Market Price」ですので、評価基準でいえば収益不動産の「取引事例」の価格に該当します。「市場価値」と同じ場合もあれば、異なる場合もあります。

「投資価値」・・・ ある投資家にとっての収益不動産の価値。鑑定評価基準には定義がありません。原著では「Investment Value」です。コンサルティングで求める範疇であり、鑑定評価として求める価額ではありませんので定義をしてないのだと思います。これも「市場価値」と同じ場合もあれば、異なる場合もあります。

なお、「投資家」という場合には、エクイティ投資家のみならずローンレンダーなども含みます。

不動産の価値は、典型的あるいは標準的な市場参加者が求める価値の水準を中心に価格が形成されていきます。ただ、収益不動産の場合、買手中心の見方に偏りがちですが、市場参加者には、売手と買手の双方がいるということも忘れてはいけません。双方が納得いく水準で価格は形成されていきます。市況によっては買手主導の市場、売手主導の市場、両者とも特段主導的立場にあるわけではない安定的な市場などが考えれますが・・・。

確かに「ローンとエクイティとで構成される不動産投資ビークルが市場参加者の中心的な存在である場合、その投資ビークルの資金調達能力、あるいは、リスクに対するポジションが不動産価格を動かすことになります。」というのは、「市場価値」(正常価格)に限定しなければ、おっしゃるとおりだと思います。まったく異論はありません。

ただ、当該価格は、「市場価格」あるいは「投資価値」とは確実にいうことはできますが、はたしてこれを「市場価値」(正常価格)といえるかどうかです。供給者側の事情、需要者側の事情、需要者側はさらに、ローンとエクイティで構成される不動産投資ビークルが市場参加者の中心であれば、エクイティ投資家とローンレンダーの事情、これらすべての参加者が、合理的な市場を前提とした場合の典型的あるいは標準的な市場参加者に該当しているのかどうかによることになります。「市場価格」あるいは「投資価値」と結果的に同じ場合もあれば、異なる場合もあります。

投資家はさまざまな投資基準で投資行動を行っておりますので、エクイティに対するリスクポジションが異なれば、当然さまざまな「市場価格」あるいは「投資価値」が生じます。また、ローンレンダーの融資条件も投資家によってさまざまですので、それによっても当然さまざまな「市場価格」あるいは「投資価値」が生じます。では、さまざまな「市場価格」あるいは「投資価値」がある中で「市場価値」(正常価格)はあるのでしょうか、ないのでしょうか。故櫛田光男先生の言い方を使わせてもらえば、さまざまな「市場価格」あるいは「投資価値」の中に潜んで必ずあるはずです。それを引き出すには、供給者と需要者(エクイティ投資家、ローンレンダー等を含む)が、合理的な市場を前提とした場合の典型的あるいは標準的な市場参加者に該当しているのかどうかがポイントです。どのような供給者と需要者がこれに該当するのかを判断するのが不動産評価の専門家としての能力の良し悪しといえます。

同一時点の同一不動産についてDCF法による収益価格を考えてみます。

A 借入金0%、自己資本100%、総合割引率YOの場合のDCF法による収益価格が1000 だとします。YOは、例えば、金融資産(国債、株式、社債など)の利回りに不動産の 個別性(投資対象としてのリスクプレミアム、流動性欠如リスクプレミアム、マネジメ ント・リスクプレミアム、安全性プレミアムなど)を加味して求めたりします。還元利 回り、純収益の変動予測との整合性もチェックします。

B 借入金70%、自己資本30%の場合、割引率は2つ必要になってきますので、借入金割 引率(金利)YM、自己資本割引率YEとしますと、DCF法による収益価格はやはり1000 でないとおかしなことになります。「市場価格」あるいは「投資価値」はいろいろあり ますが、同一時点の同一不動産についての「市場価値」(正常価格)はひとつですので。

理論的には、「YE=YO+金融リスクプレミアム」といえます(ジェフリー・D・フィッシャー、ロバート・S・マーティンの前掲書)。

これを前提に、仮にYOを一定とした場合、LTVは10%でも50%でも90%でも、YEは金融リスクに応じていろいろ変動しますが、収益価格は1000のままです。

要は、YEは単独で求めることは困難だということです。LTVが異なればYEも同じだけ異なってきます。

さまざまな「市場価格」あるいは「投資価値」の中に合理的な市場を前提とした場合の典型的あるいは標準的な市場参加者の提示する「市場価値」(正常価格)が潜んで「ある」とすれば、当該価値については、資金調達内訳ではYM、LTV、YEのいろいろな組み合わせで同じ解が得られます(資金調達コストの加重平均が同じになれば)。としますと、実際上は、資金調達の内訳側から「市場価値」(正常価格)を求めるのは困難だということです。

収益価格の求め方としては、対象不動産の投資リスクに応じてYOの暫定値を求め、典型的あるいは標準的な市場参加者を判定してLTVとYMもあらかじめ暫定値を置き、期間収益の現在価値合計と復帰価格(最終年翌期の純収益÷ターミナルキャップレート)のバランス、借入金償還余裕率(DSCR、純収益÷借入元利返済額)などを考慮し、最終的にYEも含めた各数値が妥当するバランスになっているか、総合IRRとYOの一致、などを何度も何度もチェックしながら最終結論を求めたりはします。

投資家もいろいろいますので、当然、YEが典型的あるいは標準的な市場参加者よりも低位でOKという場合もあるでしょう(その場合、収益価格は上昇、逆の場合は収益価格が下降しますのでそもそも売主側に売急ぎなどの事情がないと購入できない)。また、資金調達能力が優れていてYMが典型的あるいは標準的な市場参加者よりも低位でOKという場合もあるでしょう(上記と同様)。但し、これらは特殊な能力あるいは条件によって典型的あるいは標準的な市場参加者の提示する価値を超えた「市場価格」あるいは「投資価値」での購入であって、「市場価値」(正常価格)とはいえません。

ここで、ファイナンス理論の面から若干の考察をしてみます。

まったく同じリスクで同じ収益をあげる同類型の不動産を1つだけ持っている不動産投資ビークルをAとBの2つ想定します(法人税、取引コスト、倒産コスト等は考慮外です)。Aは負債なし、Bは負債ありです。

モディリアニ(フランコ・モディリアニ、1985年ノーベル経済学賞受賞)とミラー(マートン・ミラー、1990年当該MM理論の功績等でノーベル経済学賞受賞)の不変定理(MM理論)の第1命題によれば、税金や取引コストのない完全市場を前提とすると、企業の価値はB/Sの借方の資産のみによって決まり、貸方の資本構成と無関係である、とされています。ミラー教授がノーベル経済学賞を受賞したとき「ピザを2つに切っても4つに切ってもピザ全体の価値は変わらない」と例えたそうです。A、Bに同じ割合だけ出資するポートフォリオを考えた場合、同じリスクで同じ収益をあげるわけですから両者は同じ価値になるはずです。でなければ、割安なポートフォリオを買うと同時に割高なポートフォリオを売ることによってリスクなくサヤ抜きができることになってしまいます。このような裁定取引を通じて両者は同じ価値水準に引き寄せられます。レバレッジを高めることによって、エクイティの期待収益率は上昇しますが、同時にちょうどその効果を相殺するだけ、エクイティのリスクが高まっていると考えられたわけです。

エクイティと財務レバレッジの関係については、MM理論の第2命題で、完全市場を前提とすると、エクイティの期待収益率は、負債比率に比例して上昇する、とされています。

企業(不動産ビークル)全体の期待収益率は下記の加重平均値となります。

Ra ={ Rd × D / (D+E) } + { Re × E / (D+E) }

Ra:企業(不動産ビークル)全体の期待収益率(割引率、資本コスト率)
Rd:負債の期待収益率(借入金割引率)
Re:エクイティの期待収益率(自己資本割引率)
D :負債の時価
E :エクイティの時価

上記の式を変形しますと下記となります。MM理論の第2命題が証明されます。

Re = Ra + { (Ra-Rd) × D / E }

つまり、負債を利用している場合のエクイティの期待収益率(自己資本割引率)は、レバレッジに伴う財務リスクに対応するリスクプレミアム分(右辺第2項)を加えた値に等しいということです(現実には、負債比率が高まるにつれて、企業の倒産リスクも高まるため、Rdには倒産リスクを反映したリスクプレミアムが上乗せされ、一方、Reはその分落ち込むはずですが、前記のとおりここでは考慮外です)。

モディリアニとミラーの不変定理で何がいえるかといいますと、レバレッジをきかせ、負債比率が高まると、その金融リスクが高まった分だけ、エクイティの期待収益率(自己資本割引率)Reは上昇するということです。Raそのものは、ビジネス・モデル、事業プロジェクト、保有する不動産の投資リスク等で決まるのであって、資金調達の内訳にはよらないということです。Reが先に決まってくるのではなく、ReはRaに依存して決まってくるということです(同一時点では、事業、投資リスク等によってRaが先に決まってくるのであって、貸方の内訳をどう変えようがそれは一定ということ)。

重要なので繰り返しますと、事業、投資リスク等によって市場における企業(不動産ビークル)全体の適正な期待収益率(割引率、資本コスト率)が決まり、それに応じた資金調達をすべきといっているのでして、その逆ではありません。ただ、(B/Sでいえば借方の)企業(不動産ビークル)全体の適正な期待収益率(割引率、資本コスト率)は、いろいろな価格秩序の中に潜んでおり、簡単には識別できないものですから、より観察可能な(貸方の)エクイティと負債の期待収益率を加重平均して便宜的に代用しているに過ぎないのです。この逆をやろうとすることは、モディリアニとミラーの不変定理からすれば、それこそ本末転倒の議論です。

貸方側の内訳から、借方側の資産の価値を決めるのは「投資価値」という意味では何ら問題ありません(投資家の勝手です)。でもそれは、「市場価値」とは必ずしも同一のものではないということです。

残念ながら、私は、2人のノーベル賞学者が到達した上記理論を否定するだけの知識は毛頭持ち合わせておりませんし、純理論的には上記理論は妥当するものだと考えております。

以上繰り返しになりますが、同一時点の同一不動産の市場価値(正常価格)は、金融条件によって異なることはありません、但し、金融情勢・経済情勢や、これに影響されて融資条件など、外的環境が異なる異時点間の同一不動産の価格は同一とはいえず、同一不動産であっても、外的環境が異なる異時点間であれば、当然価格も異なってきます、ということです。典型的あるいは標準的な市場参加者自体も変わってきますし、対象不動産のベースとなる収益率も異なったものとなりますので。

もうひとつ、野口悠紀雄さん(早大大学院ファイナンス研究科教授、一橋大名誉教授)によるビジネスマン向けの入門書「ファイナンス理論入門」(2004年、ダイヤモンド社)のP8~P9をそのまま引用させていただきます。

『企業価値について最も基本的な事柄は、つぎのことだ。』
『第一に、企業の価値は、将来の収益とリスクで決まる。つまり、企業のビジネスモデルによって決まるのである。これは、ある意味では当然のことだが、後で述べるように、現実にはこの命題が理解されていないことが多い。』
『第二に、企業の価値(A)は、借入の現在価値(D)と株主にとっての企業の価値(E:株式の時価総額)の和に等しい。このことを、A=D+Eと表そう。貸借対照表の借方にあるAが、ビジネスモデルから決まる「企業の価値」だ。貸方のEは、株式市場で「時価総額」として評価されている。』

『この関係式自体は、ビジネスマンなら誰でも知っている。しかし、多くの人は、因果関係について誤解に陥っている。つまり「DとEが決まり、それによってAが決まる」と考えている人が多いのだ。』

『しかし、そうではない。将来の収益とリスクで企業の価値Aが決まり、Dを所与とすれば、AマイナスDによってEが決まるのである。』

関係式の結論だけみて勘違いされている方は意外に多いようです!でも、考えてみればあたりまえのことではないでしょうか?

投資家も、まずAという本来のポテンシャルを考えたうえで、デット(D)の状況とエクイティ(E)についての自ら設定したハードルレートを考慮して投資を決めるのが普通ではないでしょうか。

DとEを先に決めて投資を考えていたら、Dの条件が思いっきり緩和状態だったり、あるいは、物件の競争が激しいけどEへの投資需要があまりにも旺盛だったりしてハードルレートがやや低位になってきたりしたときに、本来のAの価値を超えたA’で投資してしまうということが生じてしまうのではないでしょうか。

近年のファンドバブルとその崩壊にはこのような面もあったのではないかと、私は思っております。ファンドについては、元本返済の原資としての内部留保ができないという制度上の問題も今になってはあったのだと思います。確かに、レンダーからみれば、元本返済が売却によってしかできない、でも、価格自体つかないという状況はきついです。

不動産価格が緩やかな曲線を描いて下落していくのではなく、突然値がつかなくなるという(曲線でいえば直角に下落)こともあり得るということを身をもって経験したわけです。

本当に重要な「不動産そのものの価値とは何か」(借方の話)ということから離れて、貸方のエクイティの投資収益率やレバレッジなどに目を奪われ過ぎていた面があったのではないかと思っています。

では(^E^)
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ホテルの鑑定評価

ちょっと前にシティ・ホテルの鑑定評価を行いました。シティ・ホテルという分類は日本での社会通念上の分類でやや曖昧なものではありますが、イメージとしては、大都市に立地する大型のホテルで、宿泊施設のほか、一般的には、レストラン、宴会場、婚礼施設等を有するホテルということになろうかと思います。

国際的な分類に従えば、機能別分類ではフルサービス・ホテル(多機能型ホテル)、価格別分類ではラグジャリー・ホテル(高級価格帯ホテル)あるいはアップスケール・ホテル(上級価格帯ホテル)、立地による分類ではダウンタウン・ホテル(都心型ホテル)あるいはアーバン・ホテル(都市型ホテル)ということになろうかと思います。

従前、ホテル市場は需給実態の把握や動向の分析がなかなか困難な市場でした。統計の整備が不十分であったことと、公開情報が少なく、オペレーショナル・アセットとしての市場特性の把握に困難な面があったことなどによります。

ただ、統計の未整備については、近年、観光立国推進や、観光庁の設立などを通じて、観光統計整備の必要性が強く認識され、「宿泊旅行統計調査」(2007年~)が実施され、これまで分からなかった、シティホテル、ビジネスホテル、リゾートホテル、旅館などの分類毎に、稼働率、利用客数などが月単位・都道府県単位で把握できるようになるなど、大きく改善されれています。月毎に必ずしも調査施設数が同じというわけでもありませんので、多少加工する必要はありますが、Excelシートでダウンロードできますので便利です。また、「旅行・観光消費動向調査」(2003年~)なども参考になります。

それから、ホテル取引の実態を考慮しますと、同一需給圏(対象不動産と代替・競争等の関係が成立する不動産の存する圏域で、対象不動産に関する典型的な市場参加者の視点に立って把握される)という概念には2つの側面があります。例えば、複数のホテルを運営する大型グループ会社の場合、北海道から九州・沖縄まで複数のホテルが全国各地に存在しています。この場合、それぞれのホテルの価格が当該ホテルの事業収益性に基づき評価されることになります。地方都市のホテルでも収益力が高ければ、大都市圏の収益性が悪いホテルより高価格となることもあり得、このような観点からみれば、同一需給圏は全国的とも考えられます。一方、単独のホテルの場合は、地域的指向性が強く作用し、同一需給圏は、東京圏、大阪圏等の商圏あるいは観光圏の範囲内、若しくは同一行政区域内、同一最寄駅圏内等に狭まってきます。特にホテルは立地条件が集客力に大きく影響することから、商業中心あるいは中心ターミナルから徒歩5分~10分程度までの圏域が最も需要が強い場合も多く、そのまわりに2次的マーケットが形成されるといった状況も見受けられます。ですから、対象ホテルの規模なども勘案し、どの程度までの範囲をマーケットとして想定するかということも、まずもって重要な点です。

では、ホテル市場の分析をある程度行った後に、具体的なホテルの評価を行なう場合、何が重要でしょうか。何といっても重要な経営指標は、GOP(Gross Operating Profit、営業総(粗)利益)です。

GOPは、特にホテル業界において、他のホテルとの収益性を比較する場合、運営会社あるいは支配人の業績評価を行う場合、運営委託における報酬額を決める場合(例えばGOPの何%)、買収額を検証する場合(例えばGOPの何倍)などのベースとしてよく使用されている経営指標です。

しかしながら、日本では各ホテルの会計基準がまちまちであることなどにも起因して、GOPに含めるべき項目の範囲について統一された基準があるわけではなく、やや曖昧さの残る概念とはなっています。

これは他の国でも似たところがあり、ホテル版国際会計基準とでもいうべき通称「ユニフォーム・システム」(Uniform System of Accounts for the Lodging Industry、全米ホテル協会・国際ホスピタリティ会計士協会認定のホテル会計基準)においても、約30年ほど前まではGOP概念が表記されていましたが、その後、「固定費控除前利益」、「運営委託料及び固定費控除前利益」などに変更され、現在では、「非配賦(配賦不能)営業費用控除後利益」とされ、より正確な会計表現となっています。

我が国におきましても、国際的ホテルチェーンの進出、外国資本によるM&Aや資本参加など、ホテル資産の流動化が進行する中で、国際的な業績比較が重要となっていることから、ユニフォーム・システムが注目をあびるようになっています。ただ、ユニフォーム・システムは、宿泊主体のホテル業態を念頭においた会計基準でして、料飲部門、宴会部門、婚礼部門などの比重も高い我が国では、基準を日本的に修正する必要はあります(ユニフォーム・システムでは、宴会部門は料飲部門に含められておりますし、婚礼部門は特に定められておりませんし・・・)。

とはいえ、実際上、世界のホテル業界あるいは関係者の間では未だGOP表現が日常的に使われていることに変わりはありませんので、重要な経営指標です。

では、GOPはどれぐらいの水準があればいいのかという点につきましては、ホテルのタイプによっても異なりますし、地域性、売上構成、グレードなどによっても異なりますので、一概にいうことはできないのですが、シティ・ホテル(フルサービス・ホテル)を前提にして、かなりザックリな数値をいえば、売上高の20%~30%程度が妥当な水準ではないかと思われます。おそらく日本全国平均では、20%を若干下回っているとは思います。人件費の割合が結構占めますのでやむを得ない面はあります。ただ、東南アジアなどでは40%程度はあると思いますし、欧米でも30%程度はあると思います。日本でも、外資系のラグジャリー・ホテル(高級価格帯ホテル)などでは30%程度はあると思いますし、日本のホテルでも大都市部のホテルであれば20%~30%程度あるホテルも少なくないと思います。一応、目標値としては、売上高の20%~30%程度というところではないかと思います。

ユニフォーム・システムとは若干異なりますが、我が国のホテル事業収支構造を考慮すれば、凡そ下記のような損益計算書のイメージになるのではないかと思います。

①売上高(客室部門、料飲部門、宴会部門、婚礼部門、その他の営業部門、賃貸借部門)

②営業部門費用(客室部門、料飲部門、宴会部門、婚礼部門、その他の営業部門、賃貸借部門 ・・・・ 但し、各部門毎に、売上原価、人件費、その他費用等に区分されます)

③営業部門利益(各部門毎の「①-②」)

④非配賦(配賦不能)営業費用(一般管理費、マーケティング費用、施設運営・維持費、水道光熱費)

⑤非配賦(配賦不能)営業費用控除後利益 =GOP(Gross Operating Profit、営業総(粗)利益、「③-④」)

では、このGOPからどのようにホテルの評価を行なうのでしょうか。まず、対象ホテルの過去3期~5期程度の財務諸表を分析することから始めます。ここでもいくつかの重要な経営指標があります。以下、主なものを簡単に取り上げます。

客室稼働率(OCC、Occupancy Rate)…… 客室の使用室数の状態を示す指標で、一般的にもなじみのあるものだと思います。「OCC=実際販売客室数÷販売可能客室数」です。ただ注意を要する点は、高稼働率が必ずしも好成績を示すとは限らないということです。極端な例でいえば、仮に全客室100室が全室5割引で販売された場合、OCCは100%ですが客室の実収率は50%に過ぎず、収入面から見ると半分の50室しか販売されていないのと同じということです。ですから、この指標は他の指標とよく比較検討のうえその意味するところを把握する必要があります。

ADR(平均客室料金、Average Daily Rate)…… 「ADR=全客室売上高÷実際販売客室数」です。「ADR=全客室売上高÷(総客室数×営業日数×OCC)」ということもできます。客室タイプ毎に料金は異なりますし、いろいろな割引も適用されたりしますので、同じ客室数であっても、収入総額は変動します。ホテル業界では、従来、この指標を重視していました。売れた部屋だけの平均を問題にしていたということです。では、売れなかった部屋の分はどうなるのでしょうか、ということで、現在では、次に述べる「RevPAR」重視の経営が行われるようになっています。

RevPAR(リバパー、1室当たり収入、Revenue per Available Room)…… 「RevPAR=全客室売上高÷販売可能客室数」です。「RevPAR=全客室売上高÷(総客室数×営業日数)」ということもできます。ADRでは、平均客室料金は「売れた部屋数」で除しておりますが、RevPARは、ホテルにある「全客室数」で除しておりますので、稼働率が低いホテルではてきめんに低い数値がでることになります。ホテル経営の基盤となる全客室が効率よく販売されているか否かがよくわかるわけです。上記でも述べましたが、従前、ADR中心の経営がなされておりましたが、売れなかった部屋の分はどうなるかという点とは別に客室稼働率は単独で問題にされておりました。ですから、安いツアーを受注してきて、「稼働率100%だ」ということも評価されていたわけです。RevPAR重視の経営が行われるようになってくると、より高い料金で、かつ、よりたくさん売るということが求められるわけです。

上記は客室部門の話ですが、その他の部門については「客単価」が重要な指標となります(なお、客室部門においても客単価は重要なことに変わりはありませんが)。

「料飲部門客単価=料飲部門売上高÷料飲部門利用客数」
「宴会部門客単価=宴会部門売上高÷(宴会件数×平均参加者人数)」
「婚礼部門客単価=婚礼部門売上高÷(婚礼件数×平均参加者人数)」

というような感じです。

では、各部門別の収益構造はどのようなものでしょうか。これは、私が過去に行ってきたホテル評価における経験値的なものとホテル経営に関する参考文献などから、ザックリこんな感じと把握している数値でして、必ずしも規範性のあるものではないことにご留意ください。比較的大型のシティ・ホテル(フルサービス・ホテル)を前提にします(各売上高100として)。

<客室部門>
売上高100 売上原価5~10 人件費20 その他費用5~10 部門利益60~70程度

<料飲部門>
売上高100 売上原価20~30 人件費50 その他費用5 部門利益15~25程度

<宴会部門>
売上高100 売上原価20~25 人件費25 その他費用5 部門利益45~50程度

<婚礼部門>
売上高100 売上原価20~25 人件費25 その他費用15 部門利益35~40程度

<その他部門(売店の場合)>
売上高100 売上原価60~70 人件費5 その他費用5 部門利益20~30程度

というような感じでしょうか。

以上述べたような指標及び収益構造に基づき、類似する他のホテルの指標なども参考に、対象ホテルの事業収支を分析し、対象ホテルの「平年度における安定的な事業収支」(売上高、GOP等)を判定することになります。

1点だけ注意を要するのは、企業会計上の「減価償却費」は適正な期間損益計算を行うために計上される未支出の費用であるため、キャッシュフロ-ベースでの収益を把握する不動産評価の観点からは、費用項目から「減価償却費」相当額を除外する必要があります。

さて、ここで対象ホテルの「平年度における安定的な事業収支」が求められましたので、以降、どのような形で収益還元法を適用するかです。

もちろん、この事業収支を基に、調整を施し(詳細は省略)、事業収益還元法ともいうべき方法で対象ホテルの収益価格を算定することも可能だとは思いますが、これでは指標となる利回りがありませんので、例えば、事務所ビル、共同住宅、商業施設等の還元利回りとも比較検討ができるような、同一尺度での収益構造に変換(想定)する必要があります。

そこで、鑑定評価においては、対象ホテルの土地・建物をホテル運営会社に一括して賃貸借(ホテル経営形態の分類におけるいわゆる「リース方式」)することを想定し、「平年度における安定的な事業収支」(売上高、GOP等)に基づき、「負担可能賃料相当額」を求め、これをベースに収益還元法を適用するというやり方を一般的には行います。

「リース方式」は、「マネジメント・コントラクト方式(経営委託方式)」に比べ、ホテルの運営責任のみでなく、将来におけるホテル経営全般に係る事業リスクをも負担することになりますので、「マネジメント・コントラクト方式」における経営委託料相当額に当該事業リスク負担等を加味した経営報酬を確保できる水準で負担可能な賃料が決定されると考えることができます。

具体的には、
①「マネジメント・コントラクト方式」におけるマネジメント・フィー相当額
②「FF&E(Furniture,Fixtures&Equipment、家具、什器・備品、内装等)」リザーブ相当額
③「リース方式」における事業リスク負担等の加味

ということで、「リース方式」を想定した場合の「負担可能賃料相当額」を求めることになります。

まず、①についてですが、「マネジメント・コントラクト方式」における経営委託料は、一般的に、ベース・フィー(基本運営委託料)とインセンティブ・フィー(出来高報酬)から成り立っています。インセンティブ・フィーを組合わせるようになったのは、経費削減等経営責任を課する意味合いが大きいものです。ベース・フィーは売上高の一定率で算定され、インセンティブ・フィーはGOPの一定率とすることが一般的ではないかと思われます。

ベース・フィーは、インセンティブ・フィーの内容にもよりますが、売上高の1%~3%程度と考えられ、対象ホテルの個別性等を勘案して判定します。

一方、インセンティブ・フィーは、ベース・フィーの内容、ホテル運営会社の競合状況、委託者と受託者の力関係などによってもだいぶ異なってくるとは思いますが、GOPの5%~15%程度と考えられ、対象ホテルの個別性等を勘案して判定します。

次に、②FF&Eリザーブ相当額ですが、これは、家具、什器・備品、内装等の更新のための準備金です。「リース方式」では、これらは一般的にホテル運営会社の負担となることが多く、考慮する必要があります。FF&Eリザーブはホテル規模にもよりますので一概にいうことはできないのですが、一般的には売上高の1%~3%程度と考えられ、対象ホテルの個別性も勘案して判定します。

最後に③「リース方式」における事業リスク負担等の加味ですが、これはホテルの運営状況によってまちまちですので、対象ホテルの個別性に応じて判断するしかないとは思います。

以上に基づき、

「負担可能賃料相当額=(GOP-①-②)×(1-リスク負担率)」などと算定します。

これを支払賃料として、以降は通常の(事務所、共同住宅等と同じように)収益還元法を適用していくわけです。

注意を要するのは、「修繕費」「資本的支出」については、テナント(ホテル運営会社)の負担部分もありますので、エンジニアリング・レポート(通常100%所有を前提にしている)などの金額を区分のうえ、所有者負担相当のみ計上する必要があるということです。それ以外の費用としては、土地・建物の公租公課、建物の損害保険料等があります。

還元利回りについては、「リース方式」のホテルの取引利回りとの比較検討がベストですが、エリアによってはどうしても事例を収集できないケースもありますので、そのような場合は、他の地域のホテルと事務所・共同住宅等の利回りの格差や投資家調査などを参考に判定せざるを得ない場合もあろうかと思います。

以上、簡単にホテルの評価について述べましたが、対象ホテルの現況が既に「リース方式」である場合にも、現行実際支払賃料を検証する意味において、上記の方式も適用すべきであろうと思います。

では(^E^)

投資家調査と個別不動産のキャップレ-ト

証券化対象不動産評価のキャップレートについて質問を受けたときの話です。質問者(監査法人)の趣旨は不動産投資家調査などで公表されているキャップレートとの比較などにより、対象不動産のキャップレートが若干違う水準なのではないか、具体的には、不動産投資家調査の公表値程度ではないか、ということのようでした。

そこで、まず不動産投資家調査の性格について検討してみます。これは不動産投資家などのプレーヤーにアンケートをとり、結果を集計し、代表値として中央値を公表しているものです。アンケートの回収数は百数十社程度のようです。標本数からいって統計上有意の数値が求められるような性格のものではないであろうこと、したがって公表された結果をそのまま個別の不動産に使用できないであろうことなどはおわかりになると思います。

また、「調査の性格と利用上の留意点」として以下の点、注意が喚起されております。「本調査の性格は、期待利回りを中心として投資スタンスや今後の賃料見通しなどの、投資家等市場参加者の期待値に関する回答を集計したものであり、必ずしも実際の取引に基づいて算出された数値をもとにしたものではない。」「本調査の数値は調査時点で得られる資料をもとにしており、また不動産は個別性が非常に強い資産であることから、個別の不動産の利回りに関して直接的な意味をもつものではない。したがって本調査の数値から個別の不動産の利回りを求める場合、必要な補正が適切になされない限り、不動産評価の信頼性に疑義が生ずる恐れがある。」

当該調査は半年に1回行われておりますが、Aクラスといわれるような大型ビルの取引は、都内でもそう多くの頻度で行われているわけではありません。したがいまして、調査の結果は、「投資家等市場参加者の期待値に関する回答を集計したものであり、必ずしも実際の取引に基づいて算出された数値をもとにしたものではない」のです。

つまり、アンケート回答者が想定したAクラスビルを仮に取得するとしたらどれ位の利回りを採用するかということの結果なのではないかと推測します。需要者側の期待値に近いものともいうことができるのではないかと思われ、さらに、高い利回り、低い利回りなどさまざまな利回りの中の中央値に過ぎないのです。この中央値がそのエリアのAクラスビルを取得する場合の規範あるいは標準値となるとまではいえませんし、個別具体的な不動産の利回りそのものだなどといえる性格のものではありません。

よって、「不動産は個別性が非常に強い資産であることから、個別の不動産の利回りに関して直接的な意味をもつものではない」、「したがって本調査の数値から個別の不動産の利回りを求める場合、必要な補正が適切になされない限り、不動産評価の信頼性に疑義が生ずる恐れがある」ということになるわけです。

誤解なきよう、私は、このような調査が参考にならないと申し上げているわけでは決してありません。利回りの動向が上昇しつつあるのか、低下しつつあるのか、あるいは安定的に推移しているのか、というようなトレンドを把握するためには極めて参考になる資料だと考えております。また、各エリア間の利回り格差を把握する観点からも極めて有意義な資料だと思っております。

ただ、個別性の強い不動産の個別具体的なキャップレートは上記資料から直接求めることはできないとは考えております。「必ずしも実際に取引されたビルの利回りではない」ということ、個別性の強い不動産に応じた「標準化のための補正が施されているわけではない」こと、アンケート回答者が「想定したビルが具体的にどのようなものなのかがわからない」ことなどの理由によります。「一般」物価水準の継続的な上昇・下落をインフレ・デフレといいますが、「個別」物価水準の上昇・下落をインフレ・デフレとはいわないことに類似します。

私がキャップレートを求める場合には、「実際に取引された」投資用不動産事例の、取引された際の初年度純収益を判定し、これを「実際に取引された」価格で除し、事例の取引利回り(キャップレート)を求め、事例不動産と対象不動産を実地検分のうえ、両者間の立地、建物品等、築年数、用途、維持管理の状態、テナントの状況(属性)、その他を比較検討し、各事例と比較した場合の対象不動産のキャップレートを求め、さらにこれらを比較衡量して採用するキャップレートを判定しております。したがいまして、求められたキャップレートは、取引の実態を反映していること、対象不動産の個別性を反映した個別具体的な数値といえると考えています。

それから、基本的なことにはなりますが、不動産の価値は、その不動産にとって典型的あるいは標準的な市場参加者が求める価値の水準を中心に価格が形成されていきます。現況、収益不動産の場合、買手中心の見方に偏りがちですが、市場参加者には、売手と買手の双方がいるということも忘れてはいけません。双方が納得いく水準で価格は形成されていきます。

不動産投資プレーヤーによっては、「ローンとエクイティとで構成される不動産投資ビークルが市場参加者の中心的な存在である場合、その投資ビークルの資金調達能力、あるいは、リスクに対するポジションが不動産価格を動かすことになる」と認識されている方もいらっしゃいますが、これは「投資価値」とは確実にいうことはできますが、これを鑑定評価上の「市場価値」(正常価格)といえるかどうかです。

投資家はさまざまな投資基準で投資行動を行っておりますので、エクイティに対するリスクポジションが異なれば、当然さまざまな「取引価格」あるいは「投資価値」が生じます。また、ローンレンダーの融資条件も投資家によってさまざまですので、それによっても当然さまざまな「取引価格」あるいは「投資価値」が生じます。

では、さまざまな「取引価格」あるいは「投資価値」がある中で「市場価値」(正常価格)はあるのでしょうか、ないのでしょうか。さまざまな「取引価格」あるいは「投資価値」の中に潜んで必ずあるはずです。それを引き出すには、供給者と需要者(エクイティ投資家、ローンレンダー等を含む)が、合理的な市場を前提とした場合の典型的あるいは標準的な市場参加者に該当していると想定できるかどうかということになります。どのような供給者・需要者がこれに該当するのかを判断するのが不動産評価の専門家としての不動産鑑定士の能力といえます。

結果的に不動産投資家調査と同じキャップレートということもあるでしょうし、異なるキャップレートということもあるでしょう。それは、実地検分・分析した結果であって逆ではありません。

結論としましては、「実際に取引された収益用不動産について、売主及び買主の属性はどのようなものなのか、実際の取引価格はいくらなのか、純収益はどの程度か、代替・競争不動産の純収益水準と比較してどうなのか、今後の見込みはどうなのか、実際に実地検分した結果対象不動産と比較して立地・建物品等・築年数・用途・維持管理の状態・テナントの状況(属性)などはどうなのか等々を個別具体的に判断してはじめて対象不動産のキャップレートが求められる」ことになるのであって、このような手順も踏んでいない方が、投資家(需要者サイド)のアンケート結果をその性格・内容も十分に吟味もせず、これが正しいと机上で主張するのはどうなのでしょうか?ということだと思います。

例えば、製造業の企業の場合、実際の工場を実地検分もせずして、類似業種の財務分析資料などを参考に、対象企業の財務諸表だけからその企業の真の財務分析などできないでしょう?というのと同じです。書面資料を分析すれば、どこに問題がありそうかという「あたり」はつけられると思いますが、実際に実地検分しなければ本当のところはどうなのかということが検証できないということは企業の場合も不動産の場合も同じです。「あたり」をつける能力も極めて重要だと思いますが、「あたり」は「あたり」に過ぎず、「現実」と合致する場合もあれば、合致しない場合もあります。それは、実際に足を運んで自分の目で見て検証しないと見えてこないことだと思います。

ただ実際は、不動産投資家調査などの結果を採用し、どのような根拠をもって個別具体的なキャップレートを判定したのか疑問符のつくような鑑定書も多々あります。しかし、これは専門家としての態度ではないと考えます。また、特に証券化不動産の評価については、近時、国土交通省もできるだけ具体的にキャップレートの判定過程を明示するよう指導しているところです。

説明責任を果たす意味でも、収益価格の試算に最も重要なキャップレートについては、判断過程を具体的に明示すべきと考えます。

以上のような回答を質問者へはお返しいたしました。

間違いがありましたらご指摘ください。

では(^E^)

投資報酬と投資回収の話

ある事業会社(非不動産業)の方との話の中で、「不動産の還元利回りって、何を意味するの?」という素朴な疑問を投げかけられました。

不動産鑑定評価基準では、還元利回りとは「一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率であり、将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものである」と定義されています。

でも、不動産業に携わっていない方にこれを言ってもイメージが湧いてこないと思いましたので、「投資報酬と投資回収の話」で説明しました。

そのとき若干まとめたことをご紹介します。

ただ、「将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含む」という部分は、やや専門的で複雑な話になってしまいますので、ここでは取り上げないことにします。

別に不動産に限ったことではありませんが、何かに投資する場合、投資家は、投資額の回収と投資額に対する一定の報酬を目的に投資を行うわけですので、投資の収益には、「投資の回収分(投資回収率)」と「投資の利回り分(投資報酬率)」が含まれていなければならないことになります。

したがいまして、「一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率」である還元利回りも、下記のとおりこの両者から構成されなければならないことになります。

(還元利回り)=(投資報酬率)+(投資回収率)

話を単純化するために、以下では「不動産から将来得られる純収益に変動がない場合」を前提とします。

わかりやすい例として、金融機関の融資事業を考えてみます。金融機関も融資という投資事業を行っているわけでして、投資額の回収(元本返済)と投資額に対する一定の報酬(支払利子)を得る目的で行動しているという点では、不動産投資家と何ら変わるところはありません。

金融機関から借入れをした場合、毎期、元利均等額を返済することになります。通常は元利均等月賦償還ですが、ここでは単純化するため「元利均等年賦償還の場合」を前提とします。

毎期の元利均等返済額は「年賦償還率」を使用して、

(融資額=借入額)×(年賦償還率)=(元利均等年賦返済額)

で計算できます。

年賦償還率というのは、n年間にわたり、1円を元利均等で償還するためには、毎年末の元利返済額はいくらでなければならないかを示す率です(但し、年利率 r)。

計算式は、下記のとおりです。

(年賦償還率)={r(1+r)}/{(1+r)-1}

この式は、下記の式に変形できます。

(年賦償還率)=r + r/{(1+r)-1}

つまり、

(年賦償還率)=(年利率)+(償還基金率)

ということです。

償還基金率というのは、n年末に1円とするためには、毎年末にいくらずつ預託しなければならないかを示す率です(但し、預託金は年利率rで運用)。

上記の(年利率)が(投資報酬率)に相当し、(償還基金率)が(投資回収率)に相当します。

具体的な数値例と回収計算の構造を示しますと、以下のとおりです。

1円を、年利率5.0%、期間5年で借入れた場合です。

投資回収計算

[図表-3]でいえば、毎期の回収分⑥は一定額ですが、毎期回収された額も再投資によって運用(同じ年利率前提)されますので、回収額の運用益⑤が積上がっていきます。各期の⑥と⑤を合計したものが元本返済額に相当します。両者を総合計(⑦=Σ⑤+Σ⑥)したものが期初元本の1になるわけです。

一方、投資利回り分(支払利子相当)④は、毎期元本が返済されていきますので、年々減少していきますが、再投資によって得られる運用益分⑤が、投資利回り分が減った分だけ増えますので、投資(融資)した側から見れば、毎期の投資報酬率は同じということになります。

(投資に期待される利回り)=(投資報酬率)+(投資回収率)

が当てはまります。

借入れをした場合、支払利子がだんだん減っていき、元本返済額はだんだん増えていくというのは、実はこういう計算構造なわけです。

そこで、前記で示しました

(融資額=借入額)×(年賦償還率)=(元利均等年賦返済額)

という計算式は、

(元利均等年賦返済額)/(年賦償還率)=(融資額=借入額)

ですので、

(年間収益)/(年賦償還率)=(投資額)

ということができます。

不動産投資に当てはめてみますと、

(純収益年額)/(年賦償還率)=(元本価値)

ということになります。(年賦償還率)が「不動産から将来得られる純収益に変動がない場合」の(還元利回り)に相当するということです。

(純収益)/(還元利回り=年賦償還率)=(元本価値)

では、(還元利回り=年賦償還率)として、土地と建物の還元利回りを考えてみます。

(還元利回り=年賦償還率)=(年利率r)+(償還基金率)

土地は永続資産です。土地から将来生みだされる収益も永続(永久)です。したがいまして、上記計算式の(償還基金率)を無期(n→∞)で考えてみますと、償還基金率の極限値は0となりますので、土地の還元利回りは r ということになります。つまり、投資の回収を無期で(永久に)行うということは、(投資回収率)を考慮しなくてもいいということを意味しています。(投資報酬率)のみ考えればいいわけです。

前記の[図表-3]でいえば、②償還基金率と⑤回収額運用益分が限りなく0となりますので、結局、①投資報酬率=④投資利回り分となります。

土地から「将来得られる純収益に変動がない場合」には、

(土地の還元利回り)=(年利率r)

(土地の元本価値)=(土地の純収益)/(年利率r)

ということになります。

一方、建物は有期の資産です。建物から将来生みだされる収益も有期です。したがいまして、投資の報酬と回収を有期で行う必要があるということになります。

建物から「将来得られる純収益に変動がない場合」には、

(建物の還元利回り)=(年利率r)+(償還基金率)

(建物の元本価値)=(建物の純収益)/{(年利率r)+(償還基金率)}

ということになります。(償還基金率)の部分は、(建物の元本価値)判定時点での建物価格相当を建物の経済的な残存耐用年数で回収するということを意味します。これは、償還基金法による建物償却率相当でもあります。例えば、定額法(残価率0)による償却ということでしたら、(償還基金率)の部分が「1/n」になります。

土地・建物一体(複合不動産)としての還元利回りは、

(複合不動産の還元利回り)=(土地の還元利回り)×(土地価格割合)+(建物の還元利回り)×(建物価格割合)

と考えられます。

土地と建物が一体として利用されている複合不動産においては、土地と建物の「投資報酬率(r)」は同じとも考えられます。このような場合でしたら、(土地の還元利回り)と(建物の還元利回り)の差は、「建物の投資回収率(=償還基金率)」の違いということになりますので、

(複合不動産の還元利回り)= (年利率r)+(建物価格割合)×(償還基金率)

となります。

投資行動の基本は、

(投資に期待される利回り)=(投資報酬率Return on Investment)+(投資回収率Return of Investment)

という計算構造になっているということをご理解ください。

以上、「不動産から将来得られる純収益に変動がない場合」の還元利回りについて、投資の報酬と回収の観点から考えてみました。なお、純収益が変動(定率変動、定額変動、不規則変動など)する場合や元本価値(将来の転売価格)が変動する場合の還元利回りは、計算式が複雑になりますので、今回は取り上げませんでした。これを考慮するということが、還元利回りの定義の中の「将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含む」という部分に関係することになります。

では(^E^)

継続地代評価

継続地代の依頼を受けたのですが、現行地代は著しく低廉であり、適正な水準を大きく下回っているケースでした。従前の地主と借地人の間では、人的な関係もあり、長期間低位の水準で地代が据え置かれていたようです。

当該不動産の底地部分が売却され、新地主にとしては、せめて周辺相場並みに継続地代を増額してほしいということで裁判に至り、一審は別の鑑定士が担当、現在控訴中(私が鑑定を担当)のケースです。

問題は、現行不動産鑑定評価基準に規定された継続地代の評価手法、A.差額配分法、B.利回り法、C.スライド法、D.賃貸事例比較法のうち、B.利回り法及びC.スライド法については、そもそも、従前の合意地代が適正なものであることが前提となっており、例えば、従前の地代が既に不適正な水準である場合には、両手法の適用過程がいくら適切であっても、求められる結論は不適正なまま求められてしまう可能性があるということです。

また、A.差額配分法については、新規正常地代の判定が、事例資料収集の困難性もあり、積算法によるしかなく、期待利回りの判定がかなり難しいという問題もあります。さらに、D.賃貸事例比較法についても、事例資料の収集が困難で、物的類似性のみならず、契約内容の類似性まで要求されますので一筋縄ではいきません。

以下、各手法ごとにコメントします。

A.差額配分法

差額配分法の計算構造を示せば下記のとおりです。

(現行地代)+{(新規正常地代)-(現行地代)}×(貸主への配分率)=(試算賃料)

この手法の成立根拠は、当事者が締結した過去の合意地代と対象地を新規に賃貸した場合の正常地代との隔たりの中から妥当な水準を見出すところにあります。継続地代といえども新規地代を後追いするようにその額は変化するものです。新規地代との間にどの程度の開差があるのかを見極めて、そこから新しい経済社会環境に応じた適正な地代を探ろうというのがこの手法です。

本来的には適正なものが一方にあり、それとは乖離した不相当な現実が他方にある場合、一気に適正なところにもっていけないのであれば、時間をかけて少しずつ適正なものに近づけようとする態度は極めて自然なもので、人間の発想の原理に適ったものです。当該手法は、地代や家賃についての紛争解決の手段として裁判上古くから使われてきたものを不動産鑑定評価基準が取り入れたもので、特に配分率として多く採用されている折半法(1/2法)は、両者半分ずつ譲歩する痛み分けの解決法であり、我が国の中世に現れた「折中の法」といわれる法思想や「喧嘩両成敗法」などにも通じる日本人の心理の深層にある安定した判断基準といえるものです。

「折中の法」と「喧嘩両成敗法」につきましては、本ブログで2009.8.21に歴史的考察を加えておりますのでご参照ください。

本手法は、たとえば、過去の地代が地主と借地人との何らかの関係の中で長期間低位水準に据え置かれていて、そのような関係のない新地主にとっては現行地代水準が著しく低廉(不適正)となってしまっている場合などでも、適切に調整することが可能であり、本件のようなケースでも適合性のある手法といえます。

問題は、「新規正常地代」を求める際の積算法の適用です。積算法の計算構造を示せば下記のとおりです。

(基礎価格)×(期待利回り)+(必要諸経費等)=(積算賃料)

基礎価格は、特段、減価すべき使用目的の制約はありませんので更地価格です。必要諸経費等は、土地の公租公課相当額です。

問題は期待利回りです。不動産鑑定評価基準では、「期待利回りとは、賃貸借等に供する不動産を取得するために要した資本に相当する額に対して期待される純収益のその資本相当額に対する割合をいう」とされています。

(純収益<純地代>)÷(還元利回り)=(収益価格<元本価値>)

一方、

(基礎価格<元本価値>)×(期待利回り)=(純収益<純地代>)

ですので、期待利回りは還元利回りと表裏の関係にあります。したがいまして、期待利回りを求める方法は、還元利回りに準じて求めるものとされています。ただ、純賃料(純地代)を求める場合の期待利回りは、一定の賃貸借期間に対応する期待収益を求めるためのものですので、無期収益の現在価値としての元本価値を求める場合の還元利回りとは若干異なります。

一般的には、(還元利回り)>(期待利回り)という傾向があります。長期的な期間にわたる不確実性に伴うリスクを負担するのか、一定の期間におけるリスクを負担するのかの相違によります。

そこで、新規地代を求める場合の期待利回りです。ご存知のとおり、一度所有地に借地権(普通借地権の場合)を設定してしまいますと、借地借家法の保護もあり、長期間完全所有権への復帰は望めないのが現実です。そうしますと、還元利回りと期待利回りの期間リスクの相違は実態上なくなりますので、(還元利回り)≒(期待利回り)という水準でもかまわないと思います。ただ、地主側には、将来的な更新料等の一時金収入や完全所有権復帰の可能性も見込めなくもありませんので、案件に応じ、期待利回りの水準を若干低位に見てもいいのかなとは思います。

問題は、(家賃評価とは異なり)地代評価の場合、(還元利回り)≒(期待利回り)という前提で、

(基礎価格<更地価格>)×(期待利回り)+(必要諸経費等<土地の公租公課>)

という計算をして新規地代を算定しますと、かなり高位水準に求められてしまい、現行地代との差額分をとても折半などでは調整できなくなってしまうことです。

ひとつの考え方としては、以上の議論は、借地権利金などの一時金を考慮しない場合の話と考えられますので、借地権利金を考慮すれば期待利回りの水準も異なったものとなるのではないかということです。

例えば、更地価格1000、借地権割合を60%、底地割合を40%、土地の一般的な期待利回りを5.0%、公租公課10とします。借地権設定にあたっては借地権利金600が授受されるものとします。

としますと、土地の所有権価格1000のうち、借地権価格相当である60%は、法的側面は別にして、経済的には地主から借地人へ所有権の一部が移転していると考えることもできます。これを前提にすれば、所有者持分相当である40%に対して一般的な期待収益を考えればいいことになります。計算すれば下記のとおりです。

(更地価格1000)×(底地割合40%)×(期待利回り5.0%)+(公租公課10)=30

整理すると、

(更地価格1000)×(2.0%)+(公租公課10)=30

ということになります。
借地人側としても、底地価格相当に対して一般的な期待利回りを乗じて算定した新規地代であれば上限値としては納得せざるを得ないと思います。借地権利金を受領した地主も同様です。

借地権利金を受領していない地主の場合はどうでしょうか。底地を売買で取得した地主であれば、そもそも更地価格ではなく底地価格で取得しているわけですから納得するでしょう。

ただ、借地権設定当初からの地主で借地権利金を受領していない地主の場合はどうでしょうか。この場合、長期間にわたり、新規地代と実際地代の開差が徐々に広がっていき、いわゆる借り得部分が借地人に帰属する経済的利益として借地権の経済価値を生じてきたわけですので、やむを得ないのではないかと思います。

よって、継続地代・差額配分法における新規正常地代を求める場合の積算法においては、期待利回り水準を下記のとおり求めるのも妥当かと思います。

(一般的な土地の期待利回り)×(底地割合)

B.利回り法

利回り法の計算構造を示せば下記のとおりとなります。

(基礎価格)×(継続賃料利回り)+(必要諸経費等)=(試算賃料)

継続賃料利回りは、現行賃料を定めた時点における基礎価格(元本価値)に対する純賃料の割合(従前実績純賃料利回り)を標準とすることになります。利回りという名称は付いておりますが、その本質は過去の合意賃料の額を利回りの形に変換したものといえ(これによって他の利回りとの比較検討が容易になるわけです。)、過去に合意した元本価値に対する純地代の水準を尊重しつつ、元本価値の変動分を価格時点の純地代に反映させようとするものといえます。

問題は、過去の地代が地主と借地人との何らかの関係の中で長期間低位水準に据え置かれていて、そのような関係のない新地主にとっては現行地代水準が著しく低廉(不適正)となってしまっている場合などに、過去の純賃料の元本価値(基礎価格)に対する割合を継続賃料利回りとしてそのまま採用すると、(適正な元本価値)×(純賃料と元本価値の不適正な割合)=(不適正)ですから、求められる結論は永久に不適正のまま継続してしまう可能性があるということです。このような場合、継続賃料利回りに何らかの合理的な調整あるいは修正を施す必要があると考えます。

このような場合、同一需給圏内の代替・競争不動産の純賃料利回り(比準利回り)を比較考量のうえ継続賃料利回りを求めるのが妥当ではないかと思います。事例の純賃料利回りは、

{(事例の継続地代)-(公租公課)}/(事例の土地価格)=(事例の純賃料利回り)

によって求めます(やってみますと結構大変な作業ではあります)。

事例地と対象地の違いを比較検討し、事例の純賃料利回りを補修正して比準利回りを求めることになります。

これを行えば、当該手法も本件のように現行地代水準が著しく低廉(不適正)となってしまっている場合にも採用できます。

C.スライド法

スライド法の計算構造を示せば下記のとおりです。

(最終改定時点の純地代)×(スライド指数)+(必要諸経費等)=試算賃料

上記の計算構造からもわかりますように、この手法の本質は、経済社会状況の変動によって賃料が不相当となった場合に、その経済社会状況の変動相当分を調整し、適正な賃料額を回復させようとするものです。賃料も物価の一種ですから、各種物価指数を考慮して求める本手法は、普遍的妥当性のある手法といえます。別のいい方をすれば、本手法は、賃料水準における貨幣価値を調整するもので、賃貸人の実質所得あるいは賃借人の実質負担額を調整するものといえます。

本件に関連しての問題は、過去の地代が地主と借地人との何らかの関係の中で長期間低位水準に据え置かれていて、そのような関係のない新地主にとっては現行地代水準が著しく低廉(不適正)となってしまっている場合などには、いくらスライド指数が客観的妥当性があっても、(不適正)×(妥当な指数)=(不適正)ですから、求められる結論が永久に不適正のまま継続してしまう可能性があることです。

このような場合、過去の不適正な賃料額を妥当な水準に補正してスライド指数を乗じるという考え方もありますが、そもそも価格時点の適正な賃料を求めるための手法なのに、過去の適正な賃料をあらかじめ把握しなければならないことになり、それが妥当なのかという問題があります。結局のところ、このような場合にも補正はせず手法を適用し、最終的に他の手法で求めた試算賃料との間で調整をするか、理由を説明して不採用にするかということになるのではないかと思います。

一審の鑑定を担当した別の鑑定士はスライド法を不採用としました。私としてはこれ自体は上記の理由で特段問題ないと思います。ただ、地裁判決は、スライド法を採用しなかったことを批判し、仮にスライド法を適用すれば地代***が妥当との判断を下しています。

一審の鑑定が現行地代水準の不適正性を十分立証できていなかった面はありますが、(不適正)×(妥当な指数)=(不適正)ですので、地裁判決には納得できないものがあります。

D.賃貸事例比較法

一審の鑑定では賃貸事例比較法は採用されておりませんでした。価格時点に近い継続地代の改定事例を収集することは実際上困難ですのでやむを得ない面はあります。ただ、本件は従前及び現行地代水準が著しく低廉で不適正となっているケースですので、適正な継続地代水準がどの程度なのかを論証するためにも、何らかの形で類似性のある土地の継続賃貸借実態を示す必要があったのではないかと思われます。

賃貸事例比較法は、継続に係る賃貸借の地代改定事例との比較検討過程を経て対象土地の適正な継続地代水準を求める手法です。事例には、土地の類似性のみならず、契約条件・改定事情等の類似性も要求されますので、実際上、当該手法を厳密に適用することは困難を極めます。ただ、本件のような従前及び現行地代水準が著しく低廉で不適正なケースでは、手法適用の困難性を何とか克服し、どのような形であれこれを示すべきだと思います。私も何とか当該手法に準じる形で比準賃料は算定しました。

借地借家法第11条第1項(旧借地法第12条第1項同趣旨)の地代等増減請求権の条文にある「近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったとき」は、地代額変更の請求事由のひとつですので、賃貸事例比較法による比準賃料は、評価対象土地の地代が不相当の状態になっているか否かを探るための判断材料をストレートに提供するものといえます。本件のようなケースでは、他の手法による試算賃料を検証する意味でも何よりの判断根拠となるのではないかと思います。

これをやりませんと、本件のように、従前及び現行地代水準が著しく低廉で不適正な場合、結局のところ裁判官も納得しないのではないかと思います。

地代評価の数はそれほど多くはありませんが、やるといろいろな問題がありますな~。(^E^)
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