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国債の話 ちょっと一服(^_^;)

身体の具合が芳しくなくしばらくご無沙汰してました。我々士業の人間は身体が資本!健康には気をつけないといけないな~、ということをあらためて実感しました。

ところで、先週、「国の借金、10年度末に973兆円、国民1人あたり763万円」、というニュースがありました。10年度末の国債と借入金、政府短期証券を合わせた国の債務残高が973兆1625億円に上る見通しだということを財務省が発表したものです。

10年度予算は、過去最大の約92兆円(一般会計総額)に上る見通しで、約44兆円の国債を発行してその一部に充てることなどから、10年度末には国の債務残高が上記のとおり膨らんでしまうことになります。

因みに、国債(10年物)の取引利回りは、不動産の総合収益率(割引率や内部収益率IRRなどと同じ)を求める場合などに参考にすることが多く、鑑定士としては、その推移・動向を常に把握していなければならない重要な指標です。

ただ今回は、不動産の利回りの話ではなく、最近病床で読んで感心した、岩村充著「貨幣の経済学」(集英社)の内容に基づき、通貨価値と国債についての話をしてみます。

世界大恐慌発生当時の主要国の通貨制度は金本位制でした。金本位制は、通貨と金が一定の比率で交換できることを前提とした制度です。各国の通貨価値が金に固定されていますから、金を中心に各国通貨の交換比率も固定されますので固定相場制です。

第二次世界大戦末期にでき上がった国際通貨体制をブレトンウッズ体制といいますが、これも米ドルを軸とした、擬制的な金本位制というべきものでした。この体制では、まず米ドルと金との平価が固定され(金1トロイオンス=35ドル)、この米ドルに対して、各国は「1ドル当たりいくら」というかたちで平価を設定しますので、各国通貨も間接的に金を基準に価値が固定されることになります。ブレトンウッズ体制も固定相場制です。

話は逸れますが、1900年に出版されたライマン・フランク・ボームの「オズの魔法使い」のオズ(Oz)の名の由来は色々な説がありますが、金の重さを量るオンス(英語表記でOz)からきているのではないかという説に賛成します。アメリカの通貨制度はもともと、1792年にアレクサンダー・ハミルトンの提案による鋳造法が制定されて以来、バイメタリズム(金と銀の複本位制)でしたが、1873年の鋳造法がバイメタリズムから金本位制への転換を目的に含んでいたことから、後に大きな政治問題になり、1896年、1900年の大統領選挙では大きな争点のひとつになりました。そんな中、ボームはバイメタリズム運動の熱心な支持者であったため、当時の政治情勢を盛り込んだ寓話として「オズの魔法使い」を書いたというのです。

中西部カンザス生まれの主人公ドロシーは平均的なアメリカ人のメンタリティーを象徴、カカシはバイメタリズム運動の中心勢力の農民を象徴、ブリキ人間は工場労働者を象徴、ライオンは雄弁家で知られ1896年の民主党大統領候補となり「金の十字架」演説(バイメタリズムを擁護)で有名なウィリアム・ジェニングス・ブライアン(結局、1896年から大統領に3度出馬し3度敗れる)、東の魔女はクリーヴランド大統領、西の魔女は共和党のウイリアム・マッキンリー(1896年大統領選でブライアンに大差で勝利)、オズの魔法使いはマッキンリーの選挙参謀のマーカス・ハンナ(モルガンなど金融界の大立者から資金的な支援を得る)というわけです。オズの魔法使いは金融資本家の利益のために策謀する政治家を指していたわけです。金本位制の存続が危ぶまれたとき、初代J・P・モルガンとイギリスのロスチャイルドが協力して金塊をアメリカ政府のために集め大儲けした話は有名で、クリーヴランド大統領に対し、デフレで苦しむ農民の怒りが爆発していたわけです。

金本位制についての経済史にはほんとうに色々な物語がでてきて、結構興味をそそられます。日本でいえば、高橋是清や井上準之助に焦点をあてた戦前の金融経済史などは本当におもしろく、迫力があります。

話をもとに戻しますと、これらの制度では、通貨価値が金の価値にリンクしていますので、通貨の価値自体が漂ってしまうようなことはありません。金が通貨価値を実物の世界に結びつけるアンカー(錨)の役割を果たしているのです(現代の通貨自体には、小判などとは異なり、紙幣は素材としての価値がありませんので、何らかのアンカーがないと価値が漂ってしまう可能性があるのです)。

詳細は省きますが、その後1971年にニクソン・ショックによりアメリカはドルと金の兌換を停止し、1973年には国際通貨体制が現在の変動相場制に移行したことにより、ブレトンウッズ体制は崩壊しました。

通貨価値を実物の世界に結びつけるアンカーがなくなってしまったことにより、世界の通貨体制は「海図なき航海」の時代を迎えたように思われましたが、10年を越えたあたり、1980年代には一定の秩序のようなものができあがってきました。

何か代わりになるアンカーが出現したのでしょうか?

ここでPointとなるのが、アメリカの国債オペ中心の貨幣供給が世界の中央銀行の標準モデルとして普及したことです。日本でも、日銀が国債市場で流通している国債を買い入れるかたちの国債オペにより貨幣供給のほとんどが行われています(なお、戦前の反省から、現在では新規発行国債の日銀直接引受けは禁止されています)。

例えば、最近の日銀のバランスシート(H22.1.31現在)を見てみますと、負債欄の発行銀行券は約76.9兆円となってますが、資産欄の国債は約73.2兆円となっています。総資産122.4兆円の6割を国債が占めています。これは国債オペの結果です。この中央銀行のバランスシートに占める国債の大きさは、日本のみならず、大戦後の世界共通の現象のようです。

国債がアンカーとなっているのでしょうか?

ヒントになるのが、変動相場制移行でどうなることかと心配された世界の通貨体制が落ち着きを取り戻した時期が、1980年代に登場した「合理的期待理論」を基礎とする均衡財政重視の政策運営が定着した時期に符合しているということです。

合理的期待とは、人々が入手可能な情報を最大限活用し期待形成を行えば、人々の平均的期待値は、正しい(現実を言い当てる)というものです。将来に起こる可能性のある損失あるいは利益を現在時点で先取りして行動している人々を想定して現在を分析しようとする考え方です。これを提唱した経済学者はロバート・ルーカスです。

さらにこれを発展させてケインジアン的な財政政策運営を批判したのがロバート・バローです。バローによれば、財政政策で景気を刺激しようとしても、いつかは増税というかたちで現在の景気対策のツケを払わなければならないはずで、人々が将来のツケを合理的に予想しているならば、やがて来るツケ払いのことを計算に入れて慎重に行動するはずなので、財政の景気刺激効果は人々の予想に中和されて無効になってしまうはずだというのです。

また、バローによれば、現在を生きている人々(現代世代)は自分のことだけを考えて行動しているわけではなく、自分の子供(将来世代)のことまで考えて行動しているはずなので、財政による景気刺激策はどんなに長い将来を償還期限にする国債を財源とするものであっても、必ず現在の人々の行動に影響を及ぼすはずだというのです。

ここ10年ぐらい、政治家やマスコミなどでよく聞く議論ですが、国債の償還が現代世代である場合のリカードの等価定理を国債の償還が将来世代の場合にまで発展させたこの考え方が有名な「リカード=バローの等価定理(中立命題)」です。

この考え方の基礎となっているのは、「借金の踏み倒しをしない律儀な財政原則を持つ政府」ということです。

ここで政府と中央銀行のバランスシート関係を細かい点は無視して考えてみると、中央銀行は国債(借方)を見合いに銀行券(貸方)を発行し、政府は国債(貸方、一部は中央銀行が保有、他は国民等が保有)を発行してますがその見合いとしては将来の財政余剰(借方)ということになるので、「貨幣の総価値は財政余剰についての人々の予想に結びついている」というのです。

現代の政府は、将来の財政行動についてさまざまな公約、コミットメントを行っています。コミットメントは契約ではありませんので、事情が変われば厳密に守らなくても許してもらえる場合もありますが、コミットメントが集積されれば、その全体が将来の財政余剰についての人々の予想に影響してくるはずで、コミットメントを信用してもらうことで国民の支持を得ているともいえます。

政府が将来の財政余剰について無原則で無定見でない限り、政府を拘束するコミットメントの集積が、将来の政府行動についての人々の予想を形成させることを通じて、通貨価値のアンカーになっているのではないかというのです。

政府の財政行動に関する予測が国債を通じて通貨価値を決めるというメカニズムに注目する考え方を前提にしますと、国債(但し、自国通貨建ての場合)は政府にとっての株式のような性質をもっているといえるのではないかというのです。

関連しておもしろいことが書いてありました。

現代の管理通貨制の下では、自国通貨建ての国債をいくら発行しても、それが理由で国が倒産することはないというのです。

国債償還の裏付けとなる財政力が十分でなくなれば、国債の実質価値(実物財で測った国債の価値)が値下がりします。国債の実質価値が値下がりするということは、国債をアンカーにしている通貨価値が低下するということ(あるいは物価が上昇するということ)です。国の財政力が極端に低下すれば、通貨価値もどんどん下落し、国債の価値も低下し、最後は紙屑同然になってしまい、償還に悩む必要はなくなり、容易に整理できてしまうことになるというのです(なお、以上は、極論した方が本質的な部分がわかりやすくなるという話でして、上記の事態が好ましいという話ではありません)。国債の実質価値は政府の財政力に応じて伸縮しますので、国債の返済財源に不安が生じたときに起こるのはインフレであって国家の倒産ではないというのです。自国通貨建ての国債は企業の株式のような性質をもっているというのです。

但し、そういえるのは国債が自国通貨建ての場合であって、外国通貨建ての国債は国の財政力が悪化し通貨価値が下落しても、実質返済負担(実物財で測った返済負担)は変わりませんので、紙屑にはなりません。外国通貨建ての国債を大量に発行している国は、経済の失速などにより税収不足が生じると国債が償還できなくなって倒産する可能性があります(実際は、債権国に対し、リスケやモラトリアムを申し出ることになります)。外国通貨建ての国債は企業債務のような性質をもっているというのです。

発展途上国などが国債の債務不履行を起こすのは、外国通貨建ての国債を大量に発行しているためで、自国通貨建ての国債を大量に発行している日本のような国ではこのような問題は生じないというのです。

結局のところ、貿易収支黒字が大きく経済力の点での裏付けがある我が国にあっても、将来の財政行動についての政府のコミットメントがいかに信頼できる内容のものかが重要となってくるのだと思います。あたりまえのことではありますが。

以上、ちょっとおもしろい話でしたので書いてみました。(^E^)
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