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継続地代評価

継続地代の依頼を受けたのですが、現行地代は著しく低廉であり、適正な水準を大きく下回っているケースでした。従前の地主と借地人の間では、人的な関係もあり、長期間低位の水準で地代が据え置かれていたようです。

当該不動産の底地部分が売却され、新地主にとしては、せめて周辺相場並みに継続地代を増額してほしいということで裁判に至り、一審は別の鑑定士が担当、現在控訴中(私が鑑定を担当)のケースです。

問題は、現行不動産鑑定評価基準に規定された継続地代の評価手法、A.差額配分法、B.利回り法、C.スライド法、D.賃貸事例比較法のうち、B.利回り法及びC.スライド法については、そもそも、従前の合意地代が適正なものであることが前提となっており、例えば、従前の地代が既に不適正な水準である場合には、両手法の適用過程がいくら適切であっても、求められる結論は不適正なまま求められてしまう可能性があるということです。

また、A.差額配分法については、新規正常地代の判定が、事例資料収集の困難性もあり、積算法によるしかなく、期待利回りの判定がかなり難しいという問題もあります。さらに、D.賃貸事例比較法についても、事例資料の収集が困難で、物的類似性のみならず、契約内容の類似性まで要求されますので一筋縄ではいきません。

以下、各手法ごとにコメントします。

A.差額配分法

差額配分法の計算構造を示せば下記のとおりです。

(現行地代)+{(新規正常地代)-(現行地代)}×(貸主への配分率)=(試算賃料)

この手法の成立根拠は、当事者が締結した過去の合意地代と対象地を新規に賃貸した場合の正常地代との隔たりの中から妥当な水準を見出すところにあります。継続地代といえども新規地代を後追いするようにその額は変化するものです。新規地代との間にどの程度の開差があるのかを見極めて、そこから新しい経済社会環境に応じた適正な地代を探ろうというのがこの手法です。

本来的には適正なものが一方にあり、それとは乖離した不相当な現実が他方にある場合、一気に適正なところにもっていけないのであれば、時間をかけて少しずつ適正なものに近づけようとする態度は極めて自然なもので、人間の発想の原理に適ったものです。当該手法は、地代や家賃についての紛争解決の手段として裁判上古くから使われてきたものを不動産鑑定評価基準が取り入れたもので、特に配分率として多く採用されている折半法(1/2法)は、両者半分ずつ譲歩する痛み分けの解決法であり、我が国の中世に現れた「折中の法」といわれる法思想や「喧嘩両成敗法」などにも通じる日本人の心理の深層にある安定した判断基準といえるものです。

「折中の法」と「喧嘩両成敗法」につきましては、本ブログで2009.8.21に歴史的考察を加えておりますのでご参照ください。

本手法は、たとえば、過去の地代が地主と借地人との何らかの関係の中で長期間低位水準に据え置かれていて、そのような関係のない新地主にとっては現行地代水準が著しく低廉(不適正)となってしまっている場合などでも、適切に調整することが可能であり、本件のようなケースでも適合性のある手法といえます。

問題は、「新規正常地代」を求める際の積算法の適用です。積算法の計算構造を示せば下記のとおりです。

(基礎価格)×(期待利回り)+(必要諸経費等)=(積算賃料)

基礎価格は、特段、減価すべき使用目的の制約はありませんので更地価格です。必要諸経費等は、土地の公租公課相当額です。

問題は期待利回りです。不動産鑑定評価基準では、「期待利回りとは、賃貸借等に供する不動産を取得するために要した資本に相当する額に対して期待される純収益のその資本相当額に対する割合をいう」とされています。

(純収益<純地代>)÷(還元利回り)=(収益価格<元本価値>)

一方、

(基礎価格<元本価値>)×(期待利回り)=(純収益<純地代>)

ですので、期待利回りは還元利回りと表裏の関係にあります。したがいまして、期待利回りを求める方法は、還元利回りに準じて求めるものとされています。ただ、純賃料(純地代)を求める場合の期待利回りは、一定の賃貸借期間に対応する期待収益を求めるためのものですので、無期収益の現在価値としての元本価値を求める場合の還元利回りとは若干異なります。

一般的には、(還元利回り)>(期待利回り)という傾向があります。長期的な期間にわたる不確実性に伴うリスクを負担するのか、一定の期間におけるリスクを負担するのかの相違によります。

そこで、新規地代を求める場合の期待利回りです。ご存知のとおり、一度所有地に借地権(普通借地権の場合)を設定してしまいますと、借地借家法の保護もあり、長期間完全所有権への復帰は望めないのが現実です。そうしますと、還元利回りと期待利回りの期間リスクの相違は実態上なくなりますので、(還元利回り)≒(期待利回り)という水準でもかまわないと思います。ただ、地主側には、将来的な更新料等の一時金収入や完全所有権復帰の可能性も見込めなくもありませんので、案件に応じ、期待利回りの水準を若干低位に見てもいいのかなとは思います。

問題は、(家賃評価とは異なり)地代評価の場合、(還元利回り)≒(期待利回り)という前提で、

(基礎価格<更地価格>)×(期待利回り)+(必要諸経費等<土地の公租公課>)

という計算をして新規地代を算定しますと、かなり高位水準に求められてしまい、現行地代との差額分をとても折半などでは調整できなくなってしまうことです。

ひとつの考え方としては、以上の議論は、借地権利金などの一時金を考慮しない場合の話と考えられますので、借地権利金を考慮すれば期待利回りの水準も異なったものとなるのではないかということです。

例えば、更地価格1000、借地権割合を60%、底地割合を40%、土地の一般的な期待利回りを5.0%、公租公課10とします。借地権設定にあたっては借地権利金600が授受されるものとします。

としますと、土地の所有権価格1000のうち、借地権価格相当である60%は、法的側面は別にして、経済的には地主から借地人へ所有権の一部が移転していると考えることもできます。これを前提にすれば、所有者持分相当である40%に対して一般的な期待収益を考えればいいことになります。計算すれば下記のとおりです。

(更地価格1000)×(底地割合40%)×(期待利回り5.0%)+(公租公課10)=30

整理すると、

(更地価格1000)×(2.0%)+(公租公課10)=30

ということになります。
借地人側としても、底地価格相当に対して一般的な期待利回りを乗じて算定した新規地代であれば上限値としては納得せざるを得ないと思います。借地権利金を受領した地主も同様です。

借地権利金を受領していない地主の場合はどうでしょうか。底地を売買で取得した地主であれば、そもそも更地価格ではなく底地価格で取得しているわけですから納得するでしょう。

ただ、借地権設定当初からの地主で借地権利金を受領していない地主の場合はどうでしょうか。この場合、長期間にわたり、新規地代と実際地代の開差が徐々に広がっていき、いわゆる借り得部分が借地人に帰属する経済的利益として借地権の経済価値を生じてきたわけですので、やむを得ないのではないかと思います。

よって、継続地代・差額配分法における新規正常地代を求める場合の積算法においては、期待利回り水準を下記のとおり求めるのも妥当かと思います。

(一般的な土地の期待利回り)×(底地割合)

B.利回り法

利回り法の計算構造を示せば下記のとおりとなります。

(基礎価格)×(継続賃料利回り)+(必要諸経費等)=(試算賃料)

継続賃料利回りは、現行賃料を定めた時点における基礎価格(元本価値)に対する純賃料の割合(従前実績純賃料利回り)を標準とすることになります。利回りという名称は付いておりますが、その本質は過去の合意賃料の額を利回りの形に変換したものといえ(これによって他の利回りとの比較検討が容易になるわけです。)、過去に合意した元本価値に対する純地代の水準を尊重しつつ、元本価値の変動分を価格時点の純地代に反映させようとするものといえます。

問題は、過去の地代が地主と借地人との何らかの関係の中で長期間低位水準に据え置かれていて、そのような関係のない新地主にとっては現行地代水準が著しく低廉(不適正)となってしまっている場合などに、過去の純賃料の元本価値(基礎価格)に対する割合を継続賃料利回りとしてそのまま採用すると、(適正な元本価値)×(純賃料と元本価値の不適正な割合)=(不適正)ですから、求められる結論は永久に不適正のまま継続してしまう可能性があるということです。このような場合、継続賃料利回りに何らかの合理的な調整あるいは修正を施す必要があると考えます。

このような場合、同一需給圏内の代替・競争不動産の純賃料利回り(比準利回り)を比較考量のうえ継続賃料利回りを求めるのが妥当ではないかと思います。事例の純賃料利回りは、

{(事例の継続地代)-(公租公課)}/(事例の土地価格)=(事例の純賃料利回り)

によって求めます(やってみますと結構大変な作業ではあります)。

事例地と対象地の違いを比較検討し、事例の純賃料利回りを補修正して比準利回りを求めることになります。

これを行えば、当該手法も本件のように現行地代水準が著しく低廉(不適正)となってしまっている場合にも採用できます。

C.スライド法

スライド法の計算構造を示せば下記のとおりです。

(最終改定時点の純地代)×(スライド指数)+(必要諸経費等)=試算賃料

上記の計算構造からもわかりますように、この手法の本質は、経済社会状況の変動によって賃料が不相当となった場合に、その経済社会状況の変動相当分を調整し、適正な賃料額を回復させようとするものです。賃料も物価の一種ですから、各種物価指数を考慮して求める本手法は、普遍的妥当性のある手法といえます。別のいい方をすれば、本手法は、賃料水準における貨幣価値を調整するもので、賃貸人の実質所得あるいは賃借人の実質負担額を調整するものといえます。

本件に関連しての問題は、過去の地代が地主と借地人との何らかの関係の中で長期間低位水準に据え置かれていて、そのような関係のない新地主にとっては現行地代水準が著しく低廉(不適正)となってしまっている場合などには、いくらスライド指数が客観的妥当性があっても、(不適正)×(妥当な指数)=(不適正)ですから、求められる結論が永久に不適正のまま継続してしまう可能性があることです。

このような場合、過去の不適正な賃料額を妥当な水準に補正してスライド指数を乗じるという考え方もありますが、そもそも価格時点の適正な賃料を求めるための手法なのに、過去の適正な賃料をあらかじめ把握しなければならないことになり、それが妥当なのかという問題があります。結局のところ、このような場合にも補正はせず手法を適用し、最終的に他の手法で求めた試算賃料との間で調整をするか、理由を説明して不採用にするかということになるのではないかと思います。

一審の鑑定を担当した別の鑑定士はスライド法を不採用としました。私としてはこれ自体は上記の理由で特段問題ないと思います。ただ、地裁判決は、スライド法を採用しなかったことを批判し、仮にスライド法を適用すれば地代***が妥当との判断を下しています。

一審の鑑定が現行地代水準の不適正性を十分立証できていなかった面はありますが、(不適正)×(妥当な指数)=(不適正)ですので、地裁判決には納得できないものがあります。

D.賃貸事例比較法

一審の鑑定では賃貸事例比較法は採用されておりませんでした。価格時点に近い継続地代の改定事例を収集することは実際上困難ですのでやむを得ない面はあります。ただ、本件は従前及び現行地代水準が著しく低廉で不適正となっているケースですので、適正な継続地代水準がどの程度なのかを論証するためにも、何らかの形で類似性のある土地の継続賃貸借実態を示す必要があったのではないかと思われます。

賃貸事例比較法は、継続に係る賃貸借の地代改定事例との比較検討過程を経て対象土地の適正な継続地代水準を求める手法です。事例には、土地の類似性のみならず、契約条件・改定事情等の類似性も要求されますので、実際上、当該手法を厳密に適用することは困難を極めます。ただ、本件のような従前及び現行地代水準が著しく低廉で不適正なケースでは、手法適用の困難性を何とか克服し、どのような形であれこれを示すべきだと思います。私も何とか当該手法に準じる形で比準賃料は算定しました。

借地借家法第11条第1項(旧借地法第12条第1項同趣旨)の地代等増減請求権の条文にある「近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったとき」は、地代額変更の請求事由のひとつですので、賃貸事例比較法による比準賃料は、評価対象土地の地代が不相当の状態になっているか否かを探るための判断材料をストレートに提供するものといえます。本件のようなケースでは、他の手法による試算賃料を検証する意味でも何よりの判断根拠となるのではないかと思います。

これをやりませんと、本件のように、従前及び現行地代水準が著しく低廉で不適正な場合、結局のところ裁判官も納得しないのではないかと思います。

地代評価の数はそれほど多くはありませんが、やるといろいろな問題がありますな~。(^E^)
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