投資報酬と投資回収の話
ある事業会社(非不動産業)の方との話の中で、「不動産の還元利回りって、何を意味するの?」という素朴な疑問を投げかけられました。
不動産鑑定評価基準では、還元利回りとは「一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率であり、将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものである」と定義されています。
でも、不動産業に携わっていない方にこれを言ってもイメージが湧いてこないと思いましたので、「投資報酬と投資回収の話」で説明しました。
そのとき若干まとめたことをご紹介します。
ただ、「将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含む」という部分は、やや専門的で複雑な話になってしまいますので、ここでは取り上げないことにします。
別に不動産に限ったことではありませんが、何かに投資する場合、投資家は、投資額の回収と投資額に対する一定の報酬を目的に投資を行うわけですので、投資の収益には、「投資の回収分(投資回収率)」と「投資の利回り分(投資報酬率)」が含まれていなければならないことになります。
したがいまして、「一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率」である還元利回りも、下記のとおりこの両者から構成されなければならないことになります。
(還元利回り)=(投資報酬率)+(投資回収率)
話を単純化するために、以下では「不動産から将来得られる純収益に変動がない場合」を前提とします。
わかりやすい例として、金融機関の融資事業を考えてみます。金融機関も融資という投資事業を行っているわけでして、投資額の回収(元本返済)と投資額に対する一定の報酬(支払利子)を得る目的で行動しているという点では、不動産投資家と何ら変わるところはありません。
金融機関から借入れをした場合、毎期、元利均等額を返済することになります。通常は元利均等月賦償還ですが、ここでは単純化するため「元利均等年賦償還の場合」を前提とします。
毎期の元利均等返済額は「年賦償還率」を使用して、
(融資額=借入額)×(年賦償還率)=(元利均等年賦返済額)
で計算できます。
年賦償還率というのは、n年間にわたり、1円を元利均等で償還するためには、毎年末の元利返済額はいくらでなければならないかを示す率です(但し、年利率 r)。
計算式は、下記のとおりです。
(年賦償還率)={r(1+r)n}/{(1+r)n-1}
この式は、下記の式に変形できます。
(年賦償還率)=r + r/{(1+r)n-1}
つまり、
(年賦償還率)=(年利率)+(償還基金率)
ということです。
償還基金率というのは、n年末に1円とするためには、毎年末にいくらずつ預託しなければならないかを示す率です(但し、預託金は年利率rで運用)。
上記の(年利率)が(投資報酬率)に相当し、(償還基金率)が(投資回収率)に相当します。
具体的な数値例と回収計算の構造を示しますと、以下のとおりです。
1円を、年利率5.0%、期間5年で借入れた場合です。

[図表-3]でいえば、毎期の回収分⑥は一定額ですが、毎期回収された額も再投資によって運用(同じ年利率前提)されますので、回収額の運用益⑤が積上がっていきます。各期の⑥と⑤を合計したものが元本返済額に相当します。両者を総合計(⑦=Σ⑤+Σ⑥)したものが期初元本の1になるわけです。
一方、投資利回り分(支払利子相当)④は、毎期元本が返済されていきますので、年々減少していきますが、再投資によって得られる運用益分⑤が、投資利回り分が減った分だけ増えますので、投資(融資)した側から見れば、毎期の投資報酬率は同じということになります。
(投資に期待される利回り)=(投資報酬率)+(投資回収率)
が当てはまります。
借入れをした場合、支払利子がだんだん減っていき、元本返済額はだんだん増えていくというのは、実はこういう計算構造なわけです。
そこで、前記で示しました
(融資額=借入額)×(年賦償還率)=(元利均等年賦返済額)
という計算式は、
(元利均等年賦返済額)/(年賦償還率)=(融資額=借入額)
ですので、
(年間収益)/(年賦償還率)=(投資額)
ということができます。
不動産投資に当てはめてみますと、
(純収益年額)/(年賦償還率)=(元本価値)
ということになります。(年賦償還率)が「不動産から将来得られる純収益に変動がない場合」の(還元利回り)に相当するということです。
(純収益)/(還元利回り=年賦償還率)=(元本価値)
では、(還元利回り=年賦償還率)として、土地と建物の還元利回りを考えてみます。
(還元利回り=年賦償還率)=(年利率r)+(償還基金率)
土地は永続資産です。土地から将来生みだされる収益も永続(永久)です。したがいまして、上記計算式の(償還基金率)を無期(n→∞)で考えてみますと、償還基金率の極限値は0となりますので、土地の還元利回りは r ということになります。つまり、投資の回収を無期で(永久に)行うということは、(投資回収率)を考慮しなくてもいいということを意味しています。(投資報酬率)のみ考えればいいわけです。
前記の[図表-3]でいえば、②償還基金率と⑤回収額運用益分が限りなく0となりますので、結局、①投資報酬率=④投資利回り分となります。
土地から「将来得られる純収益に変動がない場合」には、
(土地の還元利回り)=(年利率r)
(土地の元本価値)=(土地の純収益)/(年利率r)
ということになります。
一方、建物は有期の資産です。建物から将来生みだされる収益も有期です。したがいまして、投資の報酬と回収を有期で行う必要があるということになります。
建物から「将来得られる純収益に変動がない場合」には、
(建物の還元利回り)=(年利率r)+(償還基金率)
(建物の元本価値)=(建物の純収益)/{(年利率r)+(償還基金率)}
ということになります。(償還基金率)の部分は、(建物の元本価値)判定時点での建物価格相当を建物の経済的な残存耐用年数で回収するということを意味します。これは、償還基金法による建物償却率相当でもあります。例えば、定額法(残価率0)による償却ということでしたら、(償還基金率)の部分が「1/n」になります。
土地・建物一体(複合不動産)としての還元利回りは、
(複合不動産の還元利回り)=(土地の還元利回り)×(土地価格割合)+(建物の還元利回り)×(建物価格割合)
と考えられます。
土地と建物が一体として利用されている複合不動産においては、土地と建物の「投資報酬率(r)」は同じとも考えられます。このような場合でしたら、(土地の還元利回り)と(建物の還元利回り)の差は、「建物の投資回収率(=償還基金率)」の違いということになりますので、
(複合不動産の還元利回り)= (年利率r)+(建物価格割合)×(償還基金率)
となります。
投資行動の基本は、
(投資に期待される利回り)=(投資報酬率Return on Investment)+(投資回収率Return of Investment)
という計算構造になっているということをご理解ください。
以上、「不動産から将来得られる純収益に変動がない場合」の還元利回りについて、投資の報酬と回収の観点から考えてみました。なお、純収益が変動(定率変動、定額変動、不規則変動など)する場合や元本価値(将来の転売価格)が変動する場合の還元利回りは、計算式が複雑になりますので、今回は取り上げませんでした。これを考慮するということが、還元利回りの定義の中の「将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含む」という部分に関係することになります。
では(^E^)
不動産鑑定評価基準では、還元利回りとは「一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率であり、将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものである」と定義されています。
でも、不動産業に携わっていない方にこれを言ってもイメージが湧いてこないと思いましたので、「投資報酬と投資回収の話」で説明しました。
そのとき若干まとめたことをご紹介します。
ただ、「将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含む」という部分は、やや専門的で複雑な話になってしまいますので、ここでは取り上げないことにします。
別に不動産に限ったことではありませんが、何かに投資する場合、投資家は、投資額の回収と投資額に対する一定の報酬を目的に投資を行うわけですので、投資の収益には、「投資の回収分(投資回収率)」と「投資の利回り分(投資報酬率)」が含まれていなければならないことになります。
したがいまして、「一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率」である還元利回りも、下記のとおりこの両者から構成されなければならないことになります。
(還元利回り)=(投資報酬率)+(投資回収率)
話を単純化するために、以下では「不動産から将来得られる純収益に変動がない場合」を前提とします。
わかりやすい例として、金融機関の融資事業を考えてみます。金融機関も融資という投資事業を行っているわけでして、投資額の回収(元本返済)と投資額に対する一定の報酬(支払利子)を得る目的で行動しているという点では、不動産投資家と何ら変わるところはありません。
金融機関から借入れをした場合、毎期、元利均等額を返済することになります。通常は元利均等月賦償還ですが、ここでは単純化するため「元利均等年賦償還の場合」を前提とします。
毎期の元利均等返済額は「年賦償還率」を使用して、
(融資額=借入額)×(年賦償還率)=(元利均等年賦返済額)
で計算できます。
年賦償還率というのは、n年間にわたり、1円を元利均等で償還するためには、毎年末の元利返済額はいくらでなければならないかを示す率です(但し、年利率 r)。
計算式は、下記のとおりです。
(年賦償還率)={r(1+r)n}/{(1+r)n-1}
この式は、下記の式に変形できます。
(年賦償還率)=r + r/{(1+r)n-1}
つまり、
(年賦償還率)=(年利率)+(償還基金率)
ということです。
償還基金率というのは、n年末に1円とするためには、毎年末にいくらずつ預託しなければならないかを示す率です(但し、預託金は年利率rで運用)。
上記の(年利率)が(投資報酬率)に相当し、(償還基金率)が(投資回収率)に相当します。
具体的な数値例と回収計算の構造を示しますと、以下のとおりです。
1円を、年利率5.0%、期間5年で借入れた場合です。

[図表-3]でいえば、毎期の回収分⑥は一定額ですが、毎期回収された額も再投資によって運用(同じ年利率前提)されますので、回収額の運用益⑤が積上がっていきます。各期の⑥と⑤を合計したものが元本返済額に相当します。両者を総合計(⑦=Σ⑤+Σ⑥)したものが期初元本の1になるわけです。
一方、投資利回り分(支払利子相当)④は、毎期元本が返済されていきますので、年々減少していきますが、再投資によって得られる運用益分⑤が、投資利回り分が減った分だけ増えますので、投資(融資)した側から見れば、毎期の投資報酬率は同じということになります。
(投資に期待される利回り)=(投資報酬率)+(投資回収率)
が当てはまります。
借入れをした場合、支払利子がだんだん減っていき、元本返済額はだんだん増えていくというのは、実はこういう計算構造なわけです。
そこで、前記で示しました
(融資額=借入額)×(年賦償還率)=(元利均等年賦返済額)
という計算式は、
(元利均等年賦返済額)/(年賦償還率)=(融資額=借入額)
ですので、
(年間収益)/(年賦償還率)=(投資額)
ということができます。
不動産投資に当てはめてみますと、
(純収益年額)/(年賦償還率)=(元本価値)
ということになります。(年賦償還率)が「不動産から将来得られる純収益に変動がない場合」の(還元利回り)に相当するということです。
(純収益)/(還元利回り=年賦償還率)=(元本価値)
では、(還元利回り=年賦償還率)として、土地と建物の還元利回りを考えてみます。
(還元利回り=年賦償還率)=(年利率r)+(償還基金率)
土地は永続資産です。土地から将来生みだされる収益も永続(永久)です。したがいまして、上記計算式の(償還基金率)を無期(n→∞)で考えてみますと、償還基金率の極限値は0となりますので、土地の還元利回りは r ということになります。つまり、投資の回収を無期で(永久に)行うということは、(投資回収率)を考慮しなくてもいいということを意味しています。(投資報酬率)のみ考えればいいわけです。
前記の[図表-3]でいえば、②償還基金率と⑤回収額運用益分が限りなく0となりますので、結局、①投資報酬率=④投資利回り分となります。
土地から「将来得られる純収益に変動がない場合」には、
(土地の還元利回り)=(年利率r)
(土地の元本価値)=(土地の純収益)/(年利率r)
ということになります。
一方、建物は有期の資産です。建物から将来生みだされる収益も有期です。したがいまして、投資の報酬と回収を有期で行う必要があるということになります。
建物から「将来得られる純収益に変動がない場合」には、
(建物の還元利回り)=(年利率r)+(償還基金率)
(建物の元本価値)=(建物の純収益)/{(年利率r)+(償還基金率)}
ということになります。(償還基金率)の部分は、(建物の元本価値)判定時点での建物価格相当を建物の経済的な残存耐用年数で回収するということを意味します。これは、償還基金法による建物償却率相当でもあります。例えば、定額法(残価率0)による償却ということでしたら、(償還基金率)の部分が「1/n」になります。
土地・建物一体(複合不動産)としての還元利回りは、
(複合不動産の還元利回り)=(土地の還元利回り)×(土地価格割合)+(建物の還元利回り)×(建物価格割合)
と考えられます。
土地と建物が一体として利用されている複合不動産においては、土地と建物の「投資報酬率(r)」は同じとも考えられます。このような場合でしたら、(土地の還元利回り)と(建物の還元利回り)の差は、「建物の投資回収率(=償還基金率)」の違いということになりますので、
(複合不動産の還元利回り)= (年利率r)+(建物価格割合)×(償還基金率)
となります。
投資行動の基本は、
(投資に期待される利回り)=(投資報酬率Return on Investment)+(投資回収率Return of Investment)
という計算構造になっているということをご理解ください。
以上、「不動産から将来得られる純収益に変動がない場合」の還元利回りについて、投資の報酬と回収の観点から考えてみました。なお、純収益が変動(定率変動、定額変動、不規則変動など)する場合や元本価値(将来の転売価格)が変動する場合の還元利回りは、計算式が複雑になりますので、今回は取り上げませんでした。これを考慮するということが、還元利回りの定義の中の「将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含む」という部分に関係することになります。
では(^E^)
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