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グロス契約・ネット契約?

ある継続賃料訴訟の案件(私は貸主側の鑑定評価人)での話です。あるテナントの賃貸借期間中に、賃貸借床部分が拡大したり、縮小したりを何回か経由した後、現在の賃料水準は高過ぎるので減額すべきだという話でした。

相手側弁護士は、準備書面の中で、途中、賃貸借契約面積が変更されたことにより、賃貸借契約が「ネット契約」から「グロス契約」に変更されたといい、さらに、それを機会に賃料の決め方が単価をベースとしたものに変わったのだと主張し、さらに驚くことに、「グロス契約」による賃料単価に基づき、「ネット契約」上の賃貸借面積を乗じて求めた賃料総額が正当だと主張しておりました。

荒唐無稽なその論理の組み立て方には、ただただ閉口するのみでしたが、私が気になったのは「グロス契約」「ネット契約」という用語でした。

前後の文脈から、「グロス契約」と「ネット契約」という用語を賃貸借契約面積に共用部分を含むのか含まないのかで使い分けていることはわかるのですが、「この用語って、相手側弁護士がごく普通に使うほど一般的な用語なのかな~?」という疑問でした。

確かに、所有者が外資系ファンドのビルや大規模オフィスビルの評価などで、依頼者から「この階の賃貸面積はグロスです」とか「ネットです」とかいう使い方はたまに聞きますが、「グロス契約」「ネット契約」という用語はあまり聞いたことがありませんでした。

早速インターネットで検索してみました。確かに賃貸オフィス用語集というような類のサイトでは、「グロス契約とは、契約面積に、廊下などの共用部分やトイレ、給湯室などを含む場合の契約のこと。逆に、含まない場合はネット契約という。」などと書いてあります。ということは、それなりにこういう使い方をしている方々がいるということです。

私が気になったのは、米国の不動産用語にも「グロス賃貸借契約(グロス契約)」「ネット賃貸借契約(ネット契約)」という用語があり、上記とは全く意味が異なるということでした。

村田稔雄編「米和不動産用語辞典〔改訂版〕」(住宅新報社、1998)によれば、Gross Lease(グロス賃貸借契約)とは、「修繕費、諸税、維持管理費などのような不動産所有にともなって発生する諸経費を貸主が支払う定めの賃貸借契約。したがって賃料の中には、これらの諸経費が含まれることになる。」とあります。一方、Net Lease(ネット賃貸借契約)とは、「貸主が不動産に関連した支出をすることなく、賃貸純利益に相当するものを賃料として受け取る代わりに、賃借人が不動産税、保険料などの全部または一部を負担すべきことを定めた賃貸借契約。」とあります。

また、海外経験豊富な友人に薦められて購入したFriedman,Harris,and Diskin「Real Estate HANDBOOK〔Sixth Edition〕」(BARRON'S、2005)によれば、Gross Lease(グロス賃貸借契約)とは、「賃貸人が、不動産税、保険料、水道光熱費、修繕費などの運営管理費用を支払わなければならない不動産賃貸借契約。」とあります。一方、Net Lease(ネット賃貸借契約)とは、「契約に定められた賃料に加えて、賃借人(テナント)が、不動産税、保険料、維持保全管理に要する費用を支払わなければならない不動産賃貸借契約。」とあります。

不動産鑑定評価では、家賃の構成要素を下記のように分けて考えています(あくまで概略です)。

(A)一時金の運用益・償却額
(B)純賃料のうち各支払時期に定額等として授受される部分
(C)必要諸経費等(維持費、管理費、修繕費、公租公課、損害保険料ほか)

(純 賃 料)=(A)+(B)
(支払賃料)=(B)+(C)
(実質賃料)=(純 賃 料)+(C)=(A)+(支払賃料)

そうしますと、「グロス賃貸借契約(グロス契約)」における賃料は、ほぼ「支払賃料」に相当し、「ネット賃貸借契約(ネット契約)」における賃料は、ほぼ「純賃料」(より正確には「純賃料」のうち(B)の部分)に相当します。

結論的には、最初に申し上げた訴訟案件の相手側弁護士の用語法における「グロス契約」「ネット契約」は賃貸借面積の範囲に関する用語であるのに対し、米国で一般的に使用されている賃貸借契約における「グロス契約」「ネット契約」は賃貸借契約における賃料・運営費用の負担範囲に関する用語だということです。

もし和製英語を使いたいのであれば、本家本元での使用法をよく踏まえて、紛らわしくかつ誤解を招きかねない用語法ではなく、せめて「グロス面積契約」「ネット面積契約」とかにするぐらいの専門家としての配慮はほしいな~と思った次第です。

では(^E^)


追記・・・・その後、再度インターネットで検索チェックしてみましたら、賃貸オフィスの仲介業者さん、特に中小規模の業者さんの間では、「グロス契約」「ネット契約」を賃貸借面積の範囲に関する用語として使用することがある程度一般的になっているようです。外資系が賃貸人・賃借人あるいはその関係者にからんでくるような規模の大きい物件では、誤解を招く可能性もありますので、さすがにそれほど一般的だとは思えませんが・・・・?賃貸オフィス仲介大手の会社の用語集にも当該用語は記載されていませんでした(但し、「賃貸面積はネットです」というような言い方はあるようです)。

では(^E^)
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