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建築中の建物と留置権

街を歩いていると、たま~に建築途中で工事がストップし、建設会社が「留置権行使により立入りを禁ずる」みたいな看板を立てて中に入れないようにしている案件を見かけることがあります。工事発注者が工事代金を支払えなくなったケースが多いと思われます。

民事上の留置権は、他人の物の占有者がその物に関して生じた債権を有する場合に、その債権の弁済を受けるまで、そのものを留置することができる担保物権です。成立要件としては、①債権と物との牽連性、②被担保債権が弁済期にあること、③留置権者が他人の物を占有していること、④占有が不法行為によって始まったものでないことが必要となります。

一方、商事上の留置権というのもあり、基本的には、民事留置権と同じものではありますが、取引の性質の違いなどから、成立要件が民事留置権のそれを緩和、変更している部分が見られます。商人間において、商行為によって生じた債権が弁済期にあるときは、債権者は弁済を受けるまで、その債務者との間における商行為によって自己の占有に帰した債務者所有の物又は有価証券を留置することができるというものです。成立要件としては、①当事者双方が商人であること、②双方的商行為によって生じたこと、③弁済期が到来していること、④債務者所有の物または有価証券であること、⑤債務者との間の商行為を原因として債権者が占有するに至ったものであることが必要となります。②の要件は、被担保債権の発生と留置権の占有取得が双方的商行為によって生じたという一般的関係があれば足りるという意味で、民事留置権における債権と物との牽連性は商事留置権では不要という点が最も異なるところです。

以下は、私が鑑定評価上出くわした案件です。留置権が認められるかどうかによって、土地の権利価格にも影響しますので問題です。案件は、建物として独立の不動産と評価される以前に建築工事がストップしたものですので、すべてのケースに当てはまるというものでもありません。

まず、工事代金債権を被保全債権として、建設会社が建築敷地について商事留置権を主張することは可能なのでしょうか?結論としましては、建設会社は、工事請負契約により、建築敷地上で工事をしていたわけですから、土地に対する権限は、請負契約に基づく債務の履行のために土地に立ち入ることができる権限に過ぎず、発注者である土地所有者の占有補助者としての地位を有するのみで、土地所有者から独立した占有者・占有権限者とみることはできませんので、格別の権限を認める合意でもない限り、建設会社が商事留置権を主張することはできません。

つぎに、建設会社は、工事代金債権により、建前(建築中の建物)に商事・民事の留置権を有していますから、その反射的効果として、土地を占有する権限を有していると主張することは可能でしょうか?確かに建前については、商事・民事の留置権を有しているといえますが、その留置権の行使によって、土地に何らかの反射的効果があるとしましても、これはあくまでも事実上の利益であって、占有権限とはいえませんので、やはり建設会社が留置権を主張することはできません。なお、詳細はわかりませんが、建物の留置権の反射的効果として敷地に対する占有権限が認められた判例もないわけではありません。

さらに、建築工事をする初期的段階で基礎・地階など土地に関する工事を行ないますので、これに該当する工事代金相当が支払われていないといえる場合、この債権は土地に関して生じたものであるとして、建設会社が土地に民事留置権を主張することは可能でしょうか?このような工事が土地に関するものであるのは確かですが、これは建物建築工事の一環であり、建物建築のために、土崩れを防止したり、土地に杭を打ったり、地階や基礎の工事をするもので、建物建築から独立して土地自体の改良などを目的とするものではありません。したがいまして、土地(物)に関して生じた債権ということはできませんので、建設会社が民事留置権を主張することはできません。

そうしますと、工事代金支払いの不履行を理由に建築途中で工事がストップした場合、建設会社が工事代金債権を被保全債権として、建築敷地について留置権を主張することは、一般的には難しいということになります。土地を担保に融資を行った金融機関などの立場にたてば、このような結論は妥当だと思います。競売により貸付金を回収しようと思ったら、建築工事代金債権相当が控除されるというのでしたら、債権回収などできなくなりますので。

では(^E^)
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