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不動産は現物だ?

必ずしも全面的に同意しているわけではないのですが、不動産の価値は現物にこそあるという意見にも一理ありますので、この観点から考察してみます。

例えば、企業の経済価値はB/Sで言えば貸方の内訳とは関係なく、同じ不確実性で同じキャッシュフローを生む会社の価値は同じとなります。企業の価値というものは、理論的にはその企業が将来生むであろう収益の現在価値ですから、同じキャッシュフローで同じ事業リスクの企業は同じ価値でなければ裁定取引が生じちゃう観点からもおかしいわけです(但し、借入金の支払利息は損金算入できますので、厳密には法人課税を考慮外とした場合の理論的な話である点にご留意下さい。参考:モディリアニとミラーの不変定理)。

借入金が多い企業は、レバレッジによる金融リスクプレミアムがある分、自己資本収益率(株式など出資金の収益率)が高くないといけないだけです。その企業の事業リスクに応じて投下資本コストは決まってきちゃいます。

資金調達の内訳の結果資本コスト率(総合的な収益率)が決まるわけではないのです。

不動産の場合も同じで(二重課税が回避された不動産ファンドのイメージ)、その不動産現物の総合的な収益率でその不動産の経済価値(B/Sの借方の価値)は決まるのであって、例えば、100%自己資本を投下した場合も、80%借入れした場合もその不動産の価値自体は同じじゃないとおかしいわけです。そうでないと、どちらかが単純に儲かっちゃうことになり、裁定が生じますので、おかしいことになります。

証券化された不動産の投資家とか言っても、B/Sで言えば貸方の請求「債権」の価値を保有しているのであって、不動産「物権」の価値そのものを保有しているわけではないとも言えます。シニア、メザニン、エクイティとか言ってますが、リスクに応じたこれらの資金調達コストを加重平均すれば、結果的に不動産現物の総合的な収益率に等しくなるように決まるだけで、資金調達コストの内訳次第によって不動産現物の価値が変動するわけではありません。

不動産現物の総合的な収益率がまずあって、しかる後に貸方側のリスクに応じた資金調達コストの内訳が決まってくるのです。

とは言っても、じゃあ不動産現物の総合的な収益率はどのように判定すればいいのかといったら、鑑定理論上はいくつかの方法がありますが、実務は日進月歩しております。取引の現場の状況をカバーしながら、日々研鑽努力するしかないということでしょうか。
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「シニア、メザニン、エクイティとか言ってますが、リスクに応じたこれらの資金調達コストを加重平均すれば、結果的に不動産現物の総合的な収益率に等しくなるように決まるだけで、資金調達コストの内訳次第によって不動産現物の価値が変動するわけではありません。」
この因果関係は、明らかに正逆です。収益用不動産の価格が、純収益を還元利回りで除することにより、すなわち、収益価格を中心に決定されることは、論を待つところではないでしょう。有期であれ無期であれ、収益用不動産の価値は、その収益性により決せられます。一般に、賃貸用不動産の収益は、賃料ですが、この賃料についてマーケットが決するものとすれば、収益用の不動産の価値は還元利回りに依存することとなります。ローンとエクイティとで構成される不動産投資ビークルが市場参加者の中心的な存在である場合、その投資ビークルの資金調達能力、あるいは、リスクに対するポジションが不動産価格を動かすことになります。仮に、借入金の利回りとLTVが同様な投資ビークルであったとしても、それぞれにエクイティに対するリスクポジションが異なれば結果的に還元利回りには差が生じ、購入提示価格は、違ってきます。
また、金利の変動により、借入金の調達コストが上昇すれば、購入限界点は自ずから低下することとなります。
不動産の利回りが先にあって、それに投資資金のコンビネーションが順応するとの因果関係は現実的ではありません。
LTVが下がり、不動産に対するエクイティのリスクポジションが上昇したために、収益用不動産の価値が下がっている現下の状況を如何に合理的に説明されますか??

コメントへの回答です

ブログへの貴重なコメントをいただきありがとうございます。以下のとおり返答させていただきます。

まず最初におことわりさせていただきます。近年不動産の金融商品化が議論されているなかで、「不動産の価値は現物にこそある」「現物不動産をよく見てこそその価値はわかる」という意見もありますので、ブログにも書かせていただきましたが、私としましても「必ずしも全面的に同意しているわけではないのですが」、あえて当該観点の側に立って議論をしてみたということです。

それと、もうひとつ、私の議論は、同一時点の同一不動産の価格は、金融条件によって異なることはない、という趣旨でして、金融情勢・経済情勢や、これに影響されて融資条件など、外的環境が異なる異時点間の同一不動産の価格まで同一だ、といっているわけではありません。同一不動産であっても、外的環境が異なる異時点間であれば、当然価格も異なってきます。

また、私の議論は、以下に述べます「市場価値」(鑑定評価基準でいう「正常価格」)の話でありまして、「市場価格」や「投資価値」の話ではありません。

議論の混乱を避けるため、ごく簡単に用語の定義をさせていただきます。日本の不動産鑑定評価基準(以下「評価基準」といいます。)には「投資価値」の定義はありませんので、ここでは、米国のビジネススクールなどでも広くテキストとして採用されているジェフリー・D・フィッシャー、ロバート・S・マーティン著(刈谷武昭監訳)「収益不動産評価の理論と実務」(東洋経済新報社)における定義を採用させていただきます。

「市場価値」・・・ 不動産の特定の権益に対して、典型的かつ市場の事情に通じた投資家、マーケティングのための相当な期間そして現金ないしはそれと同等の条件でなされた取引、という仮定の下で、売主が見込むことができる最も確からしい価格を表す、ある特定の時点現在においてなされた価値評価額。原著では「Market Value」ですので、評価基準でいえば、鑑定士が通常求めることとされている「正常価格」に該当します。評価基準には評価基準なりの定義がありますが、別のブログでも書かせていただきましたが、ここでは、日本における鑑定評価理論の礎を築かれた故櫛田光男先生の言葉を再掲させていただきます。正常価格というものは、「売手、買手の双方が、いずれも得はしませんけれども、同時にいずれも損をしないような価格として、したがって、誰にでも通用し、誰もが納得する価格として市場という仕組みをとおして、社会一般が認めるものである」ということができます。評価基準でいえば、合理的な市場で形成されるであろう「市場価値を表示する適正な価格」ということになります。

「市場価格」・・・ 収益不動産に対して実際に支払われた価格。原著では「Market Price」ですので、評価基準でいえば収益不動産の「取引事例」の価格に該当します。「市場価値」と同じ場合もあれば、異なる場合もあります。

「投資価値」・・・ ある投資家にとっての収益不動産の価値。鑑定評価基準には定義がありません。原著では「Investment Value」です。コンサルティングで求める範疇であり、鑑定評価として求める価額ではありませんので定義をしてないのだと思います。これも「市場価値」と同じ場合もあれば、異なる場合もあります。

なお、「投資家」という場合には、エクイティ投資家のみならずローンレンダーなども含みます。

不動産の価値は、典型的あるいは標準的な市場参加者が求める価値の水準を中心に価格が形成されていきます。ただ、収益不動産の場合、買手中心の見方に偏りがちですが、市場参加者には、売手と買手の双方がいるということも忘れてはいけません。双方が納得いく水準で価格は形成されていきます。市況によっては買手主導の市場、売手主導の市場、両者とも特段主導的立場にあるわけではない安定的な市場などが考えれますが・・・。

確かに「ローンとエクイティとで構成される不動産投資ビークルが市場参加者の中心的な存在である場合、その投資ビークルの資金調達能力、あるいは、リスクに対するポジションが不動産価格を動かすことになります。」というのは、「市場価値」(正常価格)に限定しなければ、おっしゃるとおりだと思います。まったく異論はありません。

ただ、当該価格は、「市場価格」あるいは「投資価値」とは確実にいうことはできますが、はたしてこれを「市場価値」(正常価格)といえるかどうかです。供給者側の事情、需要者側の事情、需要者側はさらに、ローンとエクイティで構成される不動産投資ビークルが市場参加者の中心であれば、エクイティ投資家とローンレンダーの事情、これらすべての参加者が、合理的な市場を前提とした場合の典型的あるいは標準的な市場参加者に該当しているのかどうかによることになります。「市場価格」あるいは「投資価値」と結果的に同じ場合もあれば、異なる場合もあります。

投資家はさまざまな投資基準で投資行動を行っておりますので、エクイティに対するリスクポジションが異なれば、当然さまざまな「市場価格」あるいは「投資価値」が生じます。また、ローンレンダーの融資条件も投資家によってさまざまですので、それによっても当然さまざまな「市場価格」あるいは「投資価値」が生じます。では、さまざまな「市場価格」あるいは「投資価値」がある中で「市場価値」(正常価格)はあるのでしょうか、ないのでしょうか。故櫛田光男先生の言い方を使わせてもらえば、さまざまな「市場価格」あるいは「投資価値」の中に潜んで必ずあるはずです。それを引き出すには、供給者と需要者(エクイティ投資家、ローンレンダー等を含む)が、合理的な市場を前提とした場合の典型的あるいは標準的な市場参加者に該当しているのかどうかがポイントです。どのような供給者と需要者がこれに該当するのかを判断するのが不動産評価の専門家としての能力の良し悪しといえます。

同一時点の同一不動産についてDCF法による収益価格を考えてみます。

A 借入金0%、自己資本100%、総合割引率YOの場合のDCF法による収益価格が1000 だとします。YOは、例えば、金融資産(国債、株式、社債など)の利回りに不動産の 個別性(投資対象としてのリスクプレミアム、流動性欠如リスクプレミアム、マネジメ ント・リスクプレミアム、安全性プレミアムなど)を加味して求めたりします。還元利 回り、純収益の変動予測との整合性もチェックします。

B 借入金70%、自己資本30%の場合、割引率は2つ必要になってきますので、借入金割 引率(金利)YM、自己資本割引率YEとしますと、DCF法による収益価格はやはり1000 でないとおかしなことになります。「市場価格」あるいは「投資価値」はいろいろあり ますが、同一時点の同一不動産についての「市場価値」(正常価格)はひとつですので。

理論的には、「YE=YO+金融リスクプレミアム」といえます(ジェフリー・D・フィッシャー、ロバート・S・マーティンの前掲書)。

これを前提に、仮にYOを一定とした場合、LTVは10%でも50%でも90%でも、YEは金融リスクに応じていろいろ変動しますが、収益価格は1000のままです。

要は、YEは単独で求めることは困難だということです。LTVが異なればYEも同じだけ異なってきます。

さまざまな「市場価格」あるいは「投資価値」の中に合理的な市場を前提とした場合の典型的あるいは標準的な市場参加者の提示する「市場価値」(正常価格)が潜んで「ある」とすれば、当該価値については、資金調達内訳ではYM、LTV、YEのいろいろな組み合わせで同じ解が得られます(資金調達コストの加重平均が同じになれば)。としますと、実際上は、資金調達の内訳側から「市場価値」(正常価格)を求めるのは困難だということです。

収益価格の求め方としては、対象不動産の投資リスクに応じてYOの暫定値を求め、典型的あるいは標準的な市場参加者を判定してLTVとYMもあらかじめ暫定値を置き、期間収益の現在価値合計と復帰価格(最終年翌期の純収益÷ターミナルキャップレート)のバランス、借入金償還余裕率(DSCR、純収益÷借入元利返済額)などを考慮し、最終的にYEも含めた各数値が妥当するバランスになっているか、総合IRRとYOの一致、などを何度も何度もチェックしながら最終結論を求めたりはします。

投資家もいろいろいますので、当然、YEが典型的あるいは標準的な市場参加者よりも低位でOKという場合もあるでしょう(その場合、収益価格は上昇、逆の場合は収益価格が下降しますのでそもそも売主側に売急ぎなどの事情がないと購入できない)。また、資金調達能力が優れていてYMが典型的あるいは標準的な市場参加者よりも低位でOKという場合もあるでしょう(上記と同様)。但し、これらは特殊な能力あるいは条件によって典型的あるいは標準的な市場参加者の提示する価値を超えた「市場価格」あるいは「投資価値」での購入であって、「市場価値」(正常価格)とはいえません。

ここで、ファイナンス理論の面から若干の考察をしてみます。

まったく同じリスクで同じ収益をあげる同類型の不動産を1つだけ持っている不動産投資ビークルをAとBの2つ想定します(法人税、取引コスト、倒産コスト等は考慮外です)。Aは負債なし、Bは負債ありです。

モディリアニ(フランコ・モディリアニ、1985年ノーベル経済学賞受賞)とミラー(マートン・ミラー、1990年当該MM理論の功績等でノーベル経済学賞受賞)の不変定理(MM理論)の第1命題によれば、税金や取引コストのない完全市場を前提とすると、企業の価値はB/Sの借方の資産のみによって決まり、貸方の資本構成と無関係である、とされています。ミラー教授がノーベル経済学賞を受賞したとき「ピザを2つに切っても4つに切ってもピザ全体の価値は変わらない」と例えたそうです。A、Bに同じ割合だけ出資するポートフォリオを考えた場合、同じリスクで同じ収益をあげるわけですから両者は同じ価値になるはずです。でなければ、割安なポートフォリオを買うと同時に割高なポートフォリオを売ることによってリスクなくサヤ抜きができることになってしまいます。このような裁定取引を通じて両者は同じ価値水準に引き寄せられます。レバレッジを高めることによって、エクイティの期待収益率は上昇しますが、同時にちょうどその効果を相殺するだけ、エクイティのリスクが高まっていると考えられたわけです。

エクイティと財務レバレッジの関係については、MM理論の第2命題で、完全市場を前提とすると、エクイティの期待収益率は、負債比率に比例して上昇する、とされています。

企業(不動産ビークル)全体の期待収益率は下記の加重平均値となります。

Ra ={ Rd × D / (D+E) } + { Re × E / (D+E) }

Ra:企業(不動産ビークル)全体の期待収益率(割引率、資本コスト率)
Rd:負債の期待収益率(借入金割引率)
Re:エクイティの期待収益率(自己資本割引率)
D :負債の時価
E :エクイティの時価

上記の式を変形しますと下記となります。MM理論の第2命題が証明されます。

Re = Ra + { (Ra-Rd) × D / E }

つまり、負債を利用している場合のエクイティの期待収益率(自己資本割引率)は、レバレッジに伴う財務リスクに対応するリスクプレミアム分(右辺第2項)を加えた値に等しいということです(現実には、負債比率が高まるにつれて、企業の倒産リスクも高まるため、Rdには倒産リスクを反映したリスクプレミアムが上乗せされ、一方、Reはその分落ち込むはずですが、前記のとおりここでは考慮外です)。

モディリアニとミラーの不変定理で何がいえるかといいますと、レバレッジをきかせ、負債比率が高まると、その金融リスクが高まった分だけ、エクイティの期待収益率(自己資本割引率)Reは上昇するということです。Raそのものは、ビジネス・モデル、事業プロジェクト、保有する不動産の投資リスク等で決まるのであって、資金調達の内訳にはよらないということです。Reが先に決まってくるのではなく、ReはRaに依存して決まってくるということです(同一時点では、事業、投資リスク等によってRaが先に決まってくるのであって、貸方の内訳をどう変えようがそれは一定ということ)。

重要なので繰り返しますと、事業、投資リスク等によって市場における企業(不動産ビークル)全体の適正な期待収益率(割引率、資本コスト率)が決まり、それに応じた資金調達をすべきといっているのでして、その逆ではありません。ただ、(B/Sでいえば借方の)企業(不動産ビークル)全体の適正な期待収益率(割引率、資本コスト率)は、いろいろな価格秩序の中に潜んでおり、簡単には識別できないものですから、より観察可能な(貸方の)エクイティと負債の期待収益率を加重平均して便宜的に代用しているに過ぎないのです。この逆をやろうとすることは、モディリアニとミラーの不変定理からすれば、それこそ本末転倒の議論です。

貸方側の内訳から、借方側の資産の価値を決めるのは「投資価値」という意味では何ら問題ありません(投資家の勝手です)。でもそれは、「市場価値」とは必ずしも同一のものではないということです。

残念ながら、私は、2人のノーベル賞学者が到達した上記理論を否定するだけの知識は毛頭持ち合わせておりませんし、純理論的には上記理論は妥当するものだと考えております。

以上繰り返しになりますが、同一時点の同一不動産の市場価値(正常価格)は、金融条件によって異なることはありません、但し、金融情勢・経済情勢や、これに影響されて融資条件など、外的環境が異なる異時点間の同一不動産の価格は同一とはいえず、同一不動産であっても、外的環境が異なる異時点間であれば、当然価格も異なってきます、ということです。典型的あるいは標準的な市場参加者自体も変わってきますし、対象不動産のベースとなる収益率も異なったものとなりますので。

また、あえて上記の観点より議論したという点もご理解ください。片側だけの議論ではおもしろくありませんので・・・・。

それと、以上の議論は、私個人の私見であり、私ども「やまと鑑定パートナーズ」各組合員が合意した意見ではありませんこと申し添えます。

なお、2007年までの不動産投資ビークルを利用した投資について、低金利(しかも、短期の低金利で調達し、リファイを繰り返すやり方)と自己資本割引率(期待収益率)の低さ、LTVの高さなど(あるいは転売益をやや過大に期待したことなど)からくる投資利回りの低下には、危機感を感じてましたし、それは「市場価値」(正常価格)を超えた過大額取引も多かったと思っております。外的環境の変動によって、過大額部分が正常に戻ったという面と、正常を下回って後退しすぎている面があるとは思いますが。

今後ともよろしくお願いします。(^E^)

No title

価格にはいろいろな種類があり、投資家などの個別の状況により価格変わること、そして各投資家が提示する価格は必ずしも市場価値(正常価格)ではないこと、また、投資家等は、物件価格に金利やLTV、エクイティ期待利回りを調整する場合があることがよく分かりました。
お忙しいところ、ご説明にお時間をおさきいただきありがとうございました。
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Author:やまかんllp

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